第11話 稀血の少女《フレア視点》
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最初にあの子を見たのは屋敷の庭だった。お父様に約束をすっぽかされ、不貞腐れながらもいつもの月花樹の元へ行き、そしてお母様にお父様の愚痴を漏らして、屋敷に帰ってきた時、庭を散策していた彼女を見つけた。
真っ白な髪に赤い瞳、その人間は《《今は亡きお母様を彷彿とさせた》》。思わず見入っていると向こうも私に気づいたようで咄嗟に逃げてしまった。その日の夜は何故だかお母様のことを思い出して寝ることができなかった。
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それから何日かしたある日、またしても約束をすっぽかしたお父様を懲らしめるためにお父様の元を訪ねた時、彼女と二度目の対面をした。彼女は初めて会った時とは違い、檻の中にいた。気づいた時には彼女をプレゼントとしてもらっていた。その理由として私は『美味しそう』と無意識的に口にしていた。今思い返してみると確かに彼女の匂いには私を引き寄せる何かがあった。それが稀血と知ったのは後のことだった。しかし、そんなことよりも、私は、お母様によく似たあの少女が貴族たちに好きにされるのがいやなんだったと思う。
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結果としてお父様はあの少女を私にくれた、ただし専属メイドとして。お父様は知っているはずだ。私にとって専属メイドとはどれだけ大切な意味を持つのか。
私は彼女のことが好きでも嫌いでもない。お母様を幼くしたかのような容姿は嫌いになるわけがないが、その見た目を知らない人間がしているのには思うところがある。それに私は彼女のことを何も知らない。そんな彼女に私の専属メイドを任せることはできない。とはいえそれを拒み貴族たちに彼女が弄ばれるのはもっと良くない。結局専属メイドとしつつも私のそばには置かないということで彼女の扱いは決まった。
その日の夜、彼女を私の部屋へ招いた。彼女を私のそばへ置く理由の1つ、吸血をするためである。実のところ、食べ物としては私は彼女を好意的に思っていた。鳥籠に囚われた彼女を見てから、私は彼女の血を吸ってみたいと思っていた。吸血鬼に愛され、吸血鬼を狂わせる稀血。私はその魅力に当てられていたのだ。
人間の血は吸う場所によって味が変わる。血液中の酸素や二酸化炭素の量による変化が、私たちには大きな味の変化につながる。彼女の一級品の血を、余すとこなく味わいたい、そんな欲求が私の中を駆け巡っていた。
気づいた時には私は彼女をベットの上で押し倒していた。彼女の体のいたるとこに吸血痕があった。我に返った私は急いで彼女に服を着させると、部屋から追い出した。彼女の血は今までにないほど甘く、それでいて優しく味わいで、私の理性を吹き飛ばすには十分だった。彼女と会ってから本能に従って動くことばかりだ、彼女とはさらに距離を空けよう。そう思いながらも、彼女を追い出す際、『また明日』と私は言ってしまうのだった。
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それからも彼女とは距離を置きながら血を吸わせてもらう生活をしていた。ふと私の前に現れてしまった時には抑えられず、そのまま部屋に連れ込んだりもしたが、基本的には距離を保てたと思う。
そんな生活を続けていたある日、私が育てていた月花樹の苗のうち、2つが枯れてしまった。理由は結界の不具合のようだった。私は助けを求めるように結界の外、思い出の月花樹の元へ駆け出す。お母様に何度も《《謝った》》。何度も助けを求めた。月花樹の根本で何時間も泣き腫らした。そうして何時間も過ごして、目の腫れがひいた頃、私は屋敷へ帰ってきた。残った苗は後1つ。私はそれを大事に育てようと心に誓った。
それから数日後、またしても想定外のことが起こる。屋敷へ嵐が近づいてたのだ。朝早くからお父様に屋敷の外へ出ないよう言われた私には何もできることがなかった。昼頃、庭の植物は鉢に植え替えたとの話を聞いた私はせめてあの苗の世話だけでもしようと思いエントランスへ向かう。しかしそこに月花樹の苗の姿はなかった。
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やはりお父様は変わってしまった。お母様が亡くなってから八年、かつてのお父様はもっと笑顔だった。いや、お母様が笑顔にしていたのだろう。今のお父様は現実主義で、冷徹でそれでいてお人よしで、私のことを大事に思ってくれて、昔のお父様と冷徹なお父様が混ざり合って矛盾を抱えているように感じる。昔はもっと私のわがままを聞いてくれた。でも今は私を守るために私を縛ってるように感じる。それでも私には何もできない。今の頑固なお父様に私は無力だった。
しばらくするとあの少女が私の部屋を訪ねてきた。彼女は私に血を吸ってと頼み込んできた。彼女曰く自分はこれしかできないからだという。お父様に役割を与えられて、自分の意思を封じられて、何故だか私に似ていると思った。気づいた時には私は彼女に問いかけていた。『あなたはどうしたいのか』と。《《『私はどうしたいのか』》》と。それに対して彼女は『どうして』と答えた。『……そんなの……あなたしか知らないわよ』気づいた時には口にしていた。自分で自分を刺している気分だった。
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泣いて、泣いて、泣き腫らして、またお母様に助けを求めて。結局一睡もできなかった。真っ赤に腫れた目を取り繕いもせず私は部屋を出ようとする。しかし扉の開きが悪い。半開きになった扉を通り抜けるとそこにはあの少女がいた。少女のメイド服には葉っぱや小さな木の枝が引っかかってる。その傍らには鉢に植えられた1つの木の苗があった。
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