第1話 私、買われる
なろうで投稿している作品はカクヨムの書式に合わせているためルビなどの設定が反映されていない可能性があります。気になる方はカクヨムでの閲覧をお勧めします。
本日は初回記念で12話同時投稿です。
ぜひお楽しみください
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「もう一度聞かせてもらえるかい、フレア?」
長卓の上座の男が、長卓の上に置かれている私を挟んで、下座の少女へ問いかける。周囲の面々はあっけに取られていたり、渋い表情をしていたりとさまざまな反応だ。
「聞こえなかったの、お父様?ならもう一度いいます!」
少女は上座の男に向かってもう一度要求を口にする。
「この子を私にください!」
この日、私はこの少女に、フレアお嬢様に拾われた。
「なぜ彼女が欲しいのだい?」
「だってこの子、とっても美味しそうだもの!」
……食糧として。
**
「――ちゃん、お迎えきたわよー」
孤児院の中ではそれなりに親しいシスターが私のことを呼ぶ。
「――ちゃん、準備できてる?」
「はい、今行きます」
一度姿見を見て身だしなみを整える。真っ白な髪の毛と肌に赤い瞳、その姿を見れば誰もが私の体質に気づくであろう、特徴的なアルビノ体質の私がいた。
一月一日、年が明けたばかりの今日、孤児院のみんなは昨夜のなかなかない夜更かしのチャンスに大はしゃぎしたせいか、まだ誰も起きていないが、私はこの日、朝から里親候補との面会を控えていた。もう何回目だろう。もはや習慣となった里親候補との面会に思わずため息が出る。どうせ私のことを見たらすぐ話はなかったことになるんだから最初から取り合わなければいいのに。
「じゃあ――ちゃん。少しこの部屋で待ってて」
「あれ?シスターさんが立ち会うんじゃないんですか?」
いつもならシスターさん、私、里親候補の三名で面会するのに、今日はシスターさんは同席しないらしい。
「そうなの。なんか院長が直々にあって交渉するみたいでね。――ちゃんももう10歳だし、院長さんが本気で里親見つけようとしてるのかもね」
この孤児院では12歳までの子供達が生活しているが基本的に10歳になるまでには里親が見つかる。つまり私は売れ残っているのだ。それもこれも全て私の《《体質》》のせいではある。
「修道院での生活は厳しいって聞くからね、早く里親見つかるといいけどわね」
私のように売れ残った子供は修道院、または教会の預かりとなる。修道院では優秀なシスターになるための修行の日々が待っており、めちゃくちゃきついと修道院を出てシスターとなった孤児院の元孤児が言っていた。
「じゃあ少し待っててね」
シスターが部屋を出てしばらくすると院長が部屋に入ってきた。死んでいるんじゃないかと思えるほど色白な院長は胡散臭い微笑みを浮かべている。
「――さん、里親候補の方を連れてきました。どうか失礼のないように」
院長がそう言うとその後ろから一人の男が入ってくる。紫紺の瞳と整った髭を蓄えた、金の刺繍の入った仕立ての良い服を着た40代ほどの男だった。
「こちらはカータレット様、このカータレット領の領主様です」
院長が私に挨拶をしろと促すように男を紹介する。急いで私も自己紹介をしようとするとが私を見てつぶやいた。
「確かに上物だな。よくやったドレーク」
「はい。お褒めに預かり光栄です」
「それでは早速手続きに入ろう」
私の名前など聞く気もないと男は院長と話をする。そしてそのまま隣の部屋へと消えていった。扉の向こうから話し声が聞こえる。
「これほどまでに濃い稀血は初めて見るな」
「はい、無傷の段階で確保できたのは幸運っとも言えるでしょう。聞く話によると何度か被害に遭いかけていたようですし」
「まぁ普通ならそうであろうな。では今回の《《寄付金》》はこのくらいでいいかな?」
「おぉ、こんなにいいのですかな」
寄付金、言葉通りの意味ではないのだろう。つまり私はこの男に売られたのだ。
**
「話がついた、クライム・カータレットだ」
「はい、――です。これからよろしくお願いします、クライム様」
「……」
部屋から出てきたクライムが私に自己紹介をする。私もそれに返事を返すがそれに対して男は反応を示さない。それから院長にいくつか書類を受け取って男は部屋から出ていった。
「それでは――さん、1時間後には出発です。今のうちにみなさんに別れの挨拶を済ませておきなさい」
院長は私にそう言って部屋を出ていく。私は少し身支度をしてからお世話になったシスターに挨拶を済まし、孤児院の入り口で待つことにした。冬の肌寒い風が私の肌を撫でる。
「……早いな。もう用事は済んだのか?」
30分もするとクライムが馬車に乗って現れる。
「はい、大丈夫です」
「もう二度と会えない《《二度と会えない》》としてもか?」
クライムは私にもう一度問いかける。やはり私は普通の孤児のように引き取られるわけではないようだ。
「はい、別れを告げるような相手もいないので」
「……そうか」
私には体質のせいもあり別れの挨拶をするほど親しい友人などいない。私の反応が少し予想外だったらしくクライムは眉を顰めてからそうつぶやいた。
「では出発するぞ。乗りなさい」
「はい。クライム様」
クライムはすぐに表情を戻すと私にそう促した。私が馬車へ乗り込むと御者はすぐに馬を走らせる。こうして私はクライム様に買われたのだった。
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