5.やっぱ編入してきたよ〜!
僕や王女のソフィアが4学年になって、シナリオ通りに聖女候補が編入してきた。でも僕は、4学年になってすぐの新入生歓迎パーティーでソフィアに婚約破棄されている。おまけにこの見た目だよ。これなら攻略対象から外れているだろう! 完璧じゃん! そう安心していた僕は教室の自分の席で本を読んでいた。
この学園では、1〜3学年は一般教養や、王国の歴史、マナー等を教わる。3年間は国の援助制度があるので、平民や低所得者でも通える。手続きをすれば、学費、制服、食事等様々な援助が受けられ殆ど無料になる。そして、クラス分けも成績や身分に関係なくランダムだ。
でも、4学年からは違う。3学年の1年間での成績順にクラス分けがされ、その後も成績が落ちればクラスも変わる事になる。
そして、自分が専攻する学科を決める。普段の授業のカリキュラムの中に専攻科目の授業が入るんだ。将来が決まる訳だね。
僕は、聖女候補が魔術科を専攻するだろうと予測して、教養学科をとっていた。案の定、聖女候補は魔術科を専攻していた。そして、成績順にクラス分けされているから聖女候補とはクラスが違うんだ。
僕とソフィアはSクラス。一般教養の成績が1番から25番迄の少人数クラスだ。凄くない? 凄いでしょ? エヘヘ。だってやっぱ傍でソフィアを見守りたいからちょっと本気を出しちゃった。
聖女候補は、Cクラス。学年で100番〜150番迄のクラスだ。編入試験の点数でギリCクラスと判定されたらしい。
この学園では4学年以降はDクラスまでしかない。成績で言うと200番迄だ。200番迄に入れなかった生徒は退学になる。貴族にとってはプライドが許さない。死活問題だよ。退学になどなってしまったら、社交界で何を言われるか分かんない。退学を理由に、婚約破棄されたりもするらしいよ。
学園の説明が長くなっちゃったけど、今の僕の状況を理解してもらえたかな?
僕のモサイ見た目、ソフィアに婚約破棄された。クラスも違う。なのにだよ。なのに態々教室まで来たんだよ!
「あの、テティス・マーシア様?」
うわ! 聖女候補だよ! 何でだよ! 信じらんないよ!
だって、ここはSクラスなんだよ。聖女候補は離れたCクラス。普通はCクラスの生徒がSクラスの教室に入ってくるなんてあり得ない事ないんだよ。どんな心臓してんの!?
「………… 」
無視だ、無視。知らん顔してる内に消えてー! 僕のそんな願いは届かなかった。
「テティス・マーシア様ですよね? 無視しないで下さいぃッ!」
マジ、超うざい! デカイ声出さないでよ! 注目されてるじゃない! 相変わらず、ピンクブロンドの髪をツインテールにしていて僕を覗き込んでくる。
「……な、何?」
僕はモロ嫌そうな雰囲気を出して答えた。
「やっぱり! お友達になりましょうね! ねッ!」
信じらんないよー!! 何が、ねッ! だよ! そのツインの髪を引っこ抜いちゃうぞ!!
「……ぜ、絶対に嫌」
一言拒否して僕はまた本に目を戻した。
「えぇ〜! 照れなくてもいいのよぉ!? あたしとお友達になりたいでしょう? だから、聖女候補のあ・た・し・が! お友達になってあげると言ってるのぉ! ねッ!」
全く全然これっぽっちも照れてないし! 友達になんてなりたくないし! ツインの髪をブッた切ってあげようか!
背筋がゾッとした。駄目だ、また昔みたいに熱が出そうだよ。思わず口を手で押さえた。
「ぅぷッ……」
「テティス、お前ミーアが態々話しかけてやってるんだから返事くらいちゃんとしろよ」
僕の本を無理矢理奪い取った奴がいた。顔を上げると、そいつはニキティス・オルデン。第2攻略対象者だ。
まだ新学期が始まったばかりだよ? 編入してきて間もないよ? もう攻略されちゃったの!? ミーアなんて呼んでるの!? チョロすぎじゃない!?
第2攻略対象者、ニキティス・オルデン。伯爵家の三男だ。
茶色の短髪にカーキ色の瞳。熱血漢で単細胞。考えるより先に身体が動く様な奴だね。父親が騎士団副団長で、本人も騎士団を目指しているらしい。こいつにも、小さな頃からの婚約者がいた筈だよ。
そう思って周りを見渡すと……いたよ。廊下から心配そうな顔をしてこっちを見ている。そりゃ、そうだよね。だって僕は公爵家だよ。格上の公爵家の僕にやって良い事ではないよね。
てか、婚約者の令嬢はたしかAクラスだったはず。なのに、お前はCクラスかよ。頑張れよ。そんな聖女候補なんか相手している暇はないんじゃない? 悪いけど、立場を利用させてもらうよ。
「ぼ、僕は君に名前を呼ぶ事を許した覚えはない」
そう言って本を取り戻す。
「何を言ってるのぉ!? みんなお友達じゃないッ! 仲間なのよぉ! ねッ!」
僕がいつお前達と友達になったんだよ。仲間になったんだよ。駄目だ、マジで冷や汗が出てきちゃった。悪寒が酷くなってくる。我慢できずに、僕は立ち上がった。
「僕は関係ない。と、友達にもなった覚えはない」
それだけ言って教室を出て行った。
「ふぅ〜…… 」
裏庭の木の下にあるベンチへ座ってやっと一息ついた。マジ、ヤバかった。何でだろう? 8歳の初対面の時と言い、今もそうだ。聖女候補が近付くと、背筋がゾッとして悪寒が走り冷や汗も止まらなくなる。ばーちゃんにちゃんと聞いておけばよかったなぁ。帰ったら聞いてみよ〜っと。
「テテ……? 大丈夫なの?」
うわ、ソフィアだよ。僕の元婚約者。可愛い可愛いソフィアだよ。追いかけてきてくれたの? 超うれしいよぉ!
「え、あ、ありがとう。大丈夫」
「テテ、聖女候補と初めて会った時にもそうだったわ。また、倒れてしまうかと思った」
ソフィアは分かってくれてたんだ。嬉しい! 超うれぴいよ! ダメダメ、ニヤけてしまふー!
「あれ……気付いてたんだ?」
「当たり前じゃない。あれから避ける様に領地に行ってしまったし。何かあるんでしょう?」
駄目だよ、婚約破棄したのに何言ってんの。でも、僕は嬉しいよ。本当に嬉しい。
「何でもないよ。あ、ありがとう」
うん。ありがとう。気にかけてくれて、心配してくれてありがとうね。ソフィア。
「あの、テティス様」
おや、さっきのニキティス・オルデンの婚約者で伯爵家の令嬢、リエン・ハーテッドだ。
ブロンドのサラサラヘアーを後ろでポニーテールにしていて、栗色の瞳。いつも明るくて元気な子、て、イメージなんだけど今はオドオドしている。
「どうしたの?」
僕は意識して柔らかく言葉を掛けた。
「先程はニキティスが失礼をして申し訳ありません。どうか、許して頂けませんか?」
あぁ、婚約者の事が心配なんだね。
「き、君が謝る事じゃないよ。それに、僕はどうもしないから」
可哀想に。この子は何も悪くないのに。寧ろ、被害者だよ。自分の婚約者が、あんな聖女候補と連んでいるのを見るのは良い気がしないだろうにね。
「ありがとうございます。私から注意をしておきますので。申し訳ありません」
いいよ、いいよ。君の気持ちに免じて許しちゃうよ。しかし、もうニキティスまで攻略されたのか。早すぎない? 一体、どうなってんの?