33.捕らえられちゃったよ〜!
聖女候補と大司教が城に入ったのを確認した父の部隊の隊員達は作戦を開始していた。
先にばーちゃんとブランが、隷属されていないと確認していた兵達が手分けをして王都の隅から隅まで解呪と解毒のポーションを一斉に配り出した。
――今代の聖女様が祈られた聖水だぞー!
――今年は特別に全王都民にくださるそうだ!
――無償だぞー! 聖水だぞー!
と、声を張り上げながら配り歩いた。
何故、わざわざ『聖水』と言っているか。嘘の聖水で中毒になっているからだよ。欲するんだ。聖水が欲しいってね。
だから、必要な人程自分から取りに出てくる。
大聖堂でも、同じ様に配られた。
中毒になっていて隷属されている人達程、進んで飲むものだから広い王都なのに、大した時間はかからず解毒と解呪が済んでいった。
城でパーティーが始まる前に、ばーちゃんと僕が何をしていたかだけど。
城の外壁に沿って等間隔に魔道具を設置していたんだ。
魔力を流すと反応してシールドを展開する。そして、そのシールドの中では精神異常完全無効になる。
僕達は設置しただけなんだ。予定では、大司教と聖女候補が会場に入ったら起動させる筈だったんだ。
でも王妃様、現在の聖女様だね。そのシールドを利用して、解毒と解呪魔法も展開された。
これには本当に驚いた。格が違うとはこの事なんだろうね。
僕も魔力量は多い。ばーちゃんに羨ましがられる程度には多いんだ。
ブランに強いと言われる程の聖属性魔法も使える。
そんな僕でも、真似できないよ。僕の解呪魔法では解呪できなかったんだから。それ程、大規模で規格外な魔法だった。
「そりゃ、最強の助っ人だね」
「フフフ。テテ、そうでしょう?」
「クソ! どうなっているんだ!!」
「大司教、おとなしくするんだな。お前達の企みはもう終わりなんだよ」
「ゾイロス殿下、何を……」
「殿下ぁ、あたし聖女候補なんですぅ。あたしがぁ、次の聖女ですぅ」
ん……頭の中がお花畑とはこの事なのかな? いや、頭の上にピョコンとお花が咲いているのかな? 毒花が! 空気を読んでないなぁ。現状を把握できないのか?
「私達が何も気付かないとでも思っているのか? 大司教と聖女候補を捕らえろ!」
ゾイロス殿下がそう言われると、兵達が2人を拘束した。
「なんでぇ? なんでなのぉ? なんであたしの言う事が聞けないのぉ!?」
「クソッ! 離せ! 私は大司教だぞ! 無礼だぞ!」
そんなドタバタを見ながら僕はドラゴンアイで確認していた。聖女候補と大司教。2人の眷属化はやはり解けていなかった。
村はどうなっているんだろう? と、姉を探す。
今日の作戦の要、連絡担当が姉なんだ。姉は妖精さんを召喚できるからね。それで一瞬のうちに連絡が取れる。
大司教が、聖女候補が城に入ったよ〜。とかさ、作戦開始だぜぃ! とかさ、連絡をしてくれていたんだよ。
あ、いたいた。バルコニー近くにいたよ。きっと、連絡が取りやすい場所なんだろうな。
「姉上、村はどうでした?」
「テテ、万事OKよ。大聖堂も王都も村もすべて順調よ」
「良かった」
村にも父の部隊が待機していた。あの、聖女候補の実家がある村だよ。ばーちゃんが子供の頃に、村長が捕まった村だ。
聖女候補の実家に踏み込む隊員達と、同時に村人に聖水を配る隊員が動き出した。
村担当の隊員達には僕が作った魔道具を渡してある。
精神異常完全無効だけでなく、状態異常完全無効と、物理攻撃防御と魔法攻撃防御をエンチャントした魔道具だ。何が出てくるのか分からないので念には念を入れたんだ。
「そんな……なんで!? 離してよッ! あたしは聖女候補なのよぉ! ヒロインなのよぉぉッ!」
「民達を操る様な者は聖女候補ではないのよ」
「お、王妃様! 私は関係ないのです! 王妃様!」
「大司教、往生際が悪いですわよ」
「大司教、お前は調子に乗り過ぎた」
「へ、陛下! 私は、私は聖女候補に操られていただけなのです!」
「ちょ……ッ! 何言ってんのよぉッ!」
「本当に往生際が悪いな。ジョリー・クレメンスいるか」
「はッ。陛下、ここに」
え? えぇ!? 先生だよ? 僕の担任だよ!? どこから現れた!? 今日は驚いてばかりだよ。
「聖水と偽り、興奮剤と麻薬を薄めたものを配っておりました。しかも対価を得ております。麻薬は思考と感覚を鈍化させる効果があると判明しております。それを指示したのが大司教だと、調べはついております。
それに、聖女候補ですが、謀反ともとれる話を大聖堂でしております。証拠も魔道具で保存済みです」
これまたビックリした。普通じゃないとは思っていたけど、ここで陛下に呼ばれて調査内容を報告していると言う事はだ。父の部下だよ。陛下の影担当なのかも知れない。
まさか、学園の教師になっているなんて誰が思う? 誰も思わないよね?
「貴様! 嘘を言うな! たかが、学園の教師ごときが大司教の私に勝てるとでも思っているのか!!」
「アロガン大司教、彼はただの教師ではないぞ。分からないか? 私の影だ」
「な……! か、影など!? そんな……!!」
「やっと此処までこれた。何年も前からお前達には影が付いていたんだ。
証拠は揃っているぞ。牢で沙汰を待つが良い。連れて行け」
「へ、陛下! 陛下! そんな……私は無実です! 陛下!!」
「やめてよぉ! 触らないでッ! ニキティス! オネスト! 助けてよ! 私は聖女候補なのよぉ! この世界のヒロインなのよぉぉッ!!」
往生際が悪いとはこの事だよね。もう何を言っても無駄だと理解しなよ。
今まで、毒され隷属されていた人達がチラホラと倒れ出した。深く隷属されていた人や、中毒が進んでいた人等は急激に解毒、解呪したせいで身体が保たないのだろう。
ニキティスとオネスト達、聖女候補の周りに侍っていた学生達もそうだった。床に膝を着いて苦しそうにしている。
「ばーちゃん、ヒールしなきゃ」
「テテ、駄目よ。これ以上急に身体に変化を加えたら保たないわ。薬湯で少しずつ回復させるしかないのよ」
ばーちゃんの話を聞いていた父が、周りの兵に指示を出す。兵達は、跪いて苦しそうにしている人達を連れ出す。取り敢えず、医務室に連れて行くのだろう。
とにかく、これで一段落だ。
……誰もがそう思った。




