3.ばーちゃんキツイよ〜!
ここで先に僕が領地に引っ込んだ時の本当の理由を話しておくね。
師匠はもちろん祖母だ。僕が10歳の時だから、祖母は57歳だね。今でもパワフルだけど、7年前はもっとパワフルだった。
家族と祖母に前世の記憶があると告白してから、僕は祖母に頼み込んだんだ。
「ばーちゃん、ボクをばーちゃんとこにおいて下さい! 学園に入学するまでに、鍛えてほしいんだ!」
「テテ! 何を言い出すの!? 」
「母さま、お願いです。ボクのわがままを聞いて下さい」
「テティス、何を考えている?」
「父さま…… 」
「テテ、お前は私に何を望むの?」
祖母は、驚かなかった。僕にそう言って話を聞いてくれたんだ。
「ばーちゃん、ボク強くなりたい」
「テティス、力を求めるなら私でも教えてやれる」
「父さま、それだけじゃないんだ」
「あなた、テテの話を聞きましょう」
「母さま、ありがとう。僕は、魔法も剣も強くなりたい。気持ちも体も強くなりたいんだ」
「それで……強くなってどうする?」
「ばーちゃん、守りたいんだ。国なんて大きな事は考えていないよ。ボクの家族と婚約者を守りたい。その為に強くなりたいんだ。8歳の時に前世の記憶を思い出してから、ずっとずっと考えていてやっと決心したんだ。だから、父さま母さま、ボクを行かせてください。ばーちゃん、ボクを鍛えてください。お願いします!」
僕は、祖母に頭を下げた。両親と姉兄は、僕が突然言い出した事に驚いていた。
「テティス、入学まで領地に行くという事は、どういう事なのか分かっているのか?」
「そうよ、テテ。ソフィア様との婚約がなくなるかも知れないわよ?」
「父さま、母さま、分かってるよ」
「テテ、それでもソフィア様をお守りする事に繋がるのね?」
「うん、ばーちゃん。ボクはそう思ってる。ボクは婚約破棄されるつもりだよ」
「テテ! 婚約破棄なんて! そんな!」
「母さま、ボクは本気だよ。でないと守れないんだ」
「後悔はしないね?」
「もちろん。2年も考えたんだよ」
「分かった。私がしっかり鍛えてあげるわ」
「義母上!」
「お義母様……」
「テテ、ここでは駄目なの? 姉さまが魔法を教えてあげるわ」
「そうだよ。兄さまが剣を教えてあげる」
「ラティ、イデス。テテの決意を尊重してあげなさい」
「「お祖母様!」」
「そうか……テティスの決意か」
「あなた……?」
父が俺の目を真っ直ぐに見た。
「テティス、自分で選び決心した事だ。中途半端は許さない」
「はい。父さま」
「領地に行く事も、婚約破棄も、お前の決意なんだな?」
「はい!」
「義母上、テティスを宜しく頼みます」
父が祖母に頭を下げてくれた。
「父さま……! ありがとうございます。わがまま言ってすみません」
「テティス、但し文は書きなさい。家族は皆お前を心配している」
「分かったよ。父さま」
「でも、でも! お祖母様は魔法は凄いけど、剣は使えないでしょう!?」
「姉さま……」
「ラティ、領地には爺さまの1番弟子がいる。剣の達人よ」
「お祖母様……だって領地は遠いです。行ったら入学まで帰ってこないつもりなんでしょう? そんなの……そんなの……」
「姉さま、文を書きます。それに、絶対に帰ってきます。ボクに大切な人達を守らせてくれませんか?」
「テテ……そんな事言ったらもう引き止められないじゃない」
「姉さま、テテなら大丈夫ですよ。僕達は楽しみに待っていましょう。ただ待つだけのつもりはないけどね。僕も、テテを助けられる様に鍛えながら待ってるよ。だから、テテ。頑張るんだよ」
「兄さま、ありがとうございます!」
「……仕方ないわね。もう反対できないわね。お義母様、宜しくお願いします」
「義母上、頼みます」
「私がしっかり鍛えてあげるわ。泣いても帰さないから、覚悟しなさい」
「うん、ばーちゃん!」
――バシッ
「イテッ!」
「違うでしょ? テテ」
「何がだよ、痛いよばーちゃん!」
「テテ、これからお義母様はあなたの師匠になるのよ。お世話になるのに、ばーちゃんは駄目でしょう?」
「母さま……えっと。宜しくお願いします、お祖母様」
「よしッ。明日帰るからね。準備しておきなさい」
「うん……じゃない、はい!」
こうして、僕はばーちゃんと一緒に領地に引っ込んだんだ。数年後、聖女候補が編入してきた時に対抗する力を持ちたいが為だ。
それでも、まだ10歳だよ。14歳で入学するまでの間、僕は何度両親の元に帰りたいと泣いただろう。数えきれないほどだよ。
領地には、祖父の一番弟子を自称する騎士がいた。
マフォス・アートル 領地の護衛騎士隊長だ。僕が領地に行った時は、45歳と言っていた。父と同じ様に、剣に魔法を付与して戦う魔法剣が得意。祖父直伝だそうだ。これ、1番の自慢。
シルバーの短髪に紺色の瞳。奥さんに滅法弱い。なのに脳筋。なんと子供が5人もいる。
上4人が男の子で、1番下が女の子。やっと産まれた女の子だ。だから、超猫可愛がりしている。部下達からも信頼されている、可愛いおじさんだ。
僕も、魔法剣を使う。このマフォス直伝なんだよ。いつも身体中が痣だらけになるほど、コテンパンにやられる。
そして、いくらやられてもばーちゃんは魔法で治してくれない。
「身体の痛みと一緒に覚えなさい。て、訳じゃないけど、折角筋肉が修復して成長しようとしているのに、魔法で治したら意味がないわ」
とか、僕には言いながら、ばーちゃんの中でここまでってラインがあるみたい。
僕が寝ている間に、こっそりヒールしてくれているのを僕は知っている。
魔法はばーちゃん直伝だ。幸い、僕には膨大な魔力があった。王の血統には時々魔力量の多い子が生まれるって父が言ってた。僕はそれだったみたい。
一日中、ばーちゃんに鍛えられても、魔力枯渇をおこす事はなかった程なんだよ。
「羨ましい……」
と、ばーちゃんがボソッと言っていたのを、僕は聞き逃さなかったね。
ところで……僕は、領地にいる間、一度も髪を切らなかった。伸び放題だ。
「テテ、その頭はなんとかしなさい」
「え……このまま帰るよ?」
「うわ……うっとうしい」
なんだって!? ばーちゃんたら酷いよね。まあ、確かに鬱陶しいけど。
とりあえず、肩位まで切るかな。と、切った。後ろで、尻尾の様に結んでいる。前髪は、最初に言った様に目が隠れる長さだ。これで、モサイ僕の完成だ。うん、なかなかだね。フホホッ。
「テテ、何か考えがあるんだろうから止めないけど。事が済んだらスッキリと切りなさいよ?」
「うん。ばーちゃん」
――バシッ!
「イテッ!」
「だから! ばーちゃんじゃないでしょ!? 」
「はい、お祖母様!」
「よしッ」
僕とばーちゃんの関係も完成だ。
なかなかお話が進みませんが、やっと主人公が領地から戻ってきます。
前書きが長い!
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