23.魔力切れになっちゃったよ〜!
僕達は馬車を降りて大聖堂の中へ入って行った。
その間も僕はドラゴンアイで周りの人達を見ている。
「はぁ~……」
「テテ?」
「ばーちゃん、見事にみんな隷属されているよ」
「私の鑑定眼だと何も見えないわ。悔しいわね」
姉上、きょわいよぉ~。
ブラン、姉上にも加護を授けてくれないかな?
無理ならドラゴンアイだけでも使えるようにしてくれないかな。
「テテ、見て」
大聖堂の中に入って、主礼拝堂の入り口でばーちゃんが言った。
「え……」
主礼拝堂の説教壇の上にいたのは、あの聖女候補だった。
そして、聖女候補の隣には、大司教の姿があった。
まさか、聖女候補がいるとは思わなかったよ。だって、学園の寮に入っているんだよ。なのに、学園の授業が終わったら態々大聖堂に来てこんな事をしてるって事なの? 信じらんないよ。
説教壇の前に並べてあるベンチ椅子に座りお祈りポーズの民達。
その前で、聖女候補は言葉にほんの僅かな魔力をのせて、大袈裟な身振り手振りで話している。
聖女候補からは見えない様に柱に隠れながらこっそりと見て歩くと、聞いている民達の表情が虚ろで視点が合っていない。
恍惚とした表情をしている。
そして、周りの司祭達が聖水を配っている。
民達は有難そうに聖水を受け取り、なんの躊躇いもなく飲み干している。
聖女候補の言っていることは単純だ。
『皆平等なんだ』
『幸せになる権利があるんだ』
『平民が税を納めているから貴族達は贅沢が出来るんだ』
『皆で王国を変えましょう』
『皆で幸せになりましょう!』
「ばーちゃん、これは駄目だよ」
「そうね、テテ。これは反逆罪だわ」
「ばーちゃん、暴動が起こったら傷つくのは民だよ」
「とんでもない事をやってくれるわね……」
ばーちゃんが静かに怒っているのが分かった。姉もだ。
僕だってそうだよ。こんなの駄目だ。普通じゃない。
人々の心を誘導して、こんな事をしているなんて。
「テテ、大体は見たかしら?」
「うん、ばーちゃん。大丈夫だよ」
聖女候補も大司教もしっかりとドラゴンアイで見たからね。
もう、こんな気持ちの悪いところには居たくない。
「ばーちゃん、姉上、早く帰りましょう」
僕達は家に邸に帰ってきた。
まだ、父と兄は戻ってきていない。
「お帰りなさい。早かったわね」
「おう、テテ。見れたか?」
「ブラン、うん」
「ん? どうした? 元気ないな?」
「ブラン、ドラゴンアイは凄いよ。全部見れたよ。知りたかった事が分かった」
「そうか。良かったじゃねーか」
そうなんだけど……あれ? 少し頭が重いな……
僕は、こめかみを押さえた。
「テテ、もしかして今日1日中ドラゴンアイを使っていたのじゃないの?」
「うん、ばーちゃん。そうだけど……」
「馬鹿! いくらテテでも流石に魔力切れを起こすわよ! 頭が重いのでしょう?」
そうなんだよ。そっか、これが魔力切れなんだ……
「テテ!!」
ブラン、声が大きいよ……
そのまま僕は意識を失った。
どれだけ気を失っていたのかな?
僕はゆっくりと、目を開けた。母とブランが心配そうな顔をしてベッドの側にいた。
「テテ、大丈夫か? まだ頭が痛いか?」
「ブラン、もう大丈夫だよ。魔力切れって、ああなるんだね。知らなかったよ」
ヘラッと僕は笑った。
「テテ、お前無理するんじゃないよ。それでなくてもテテは10歳から頑張っているんだろ? もっと、周りを頼りなよ?」
そっか。心配かけちゃったね。
「うん、ブラン。ありがとう」
「テテ、本当よ。心配したわ」
「母上。すみません、心配かけちゃいました」
「お願いだから、無理しないで。もう、テテが倒れるのを見るのは嫌よ」
母上、ごめんなさい。
「起きられる? お父様とイデスが戻っているわ」
「うん、起きれるよ」
僕はゆっくりと体を起こした。
あぁ、喉が乾いちゃった。
「テテ、お水よ」
「母上、ありがとう」
母からお水をもらって、ボクは一気に飲み干した。
「あぁ、生き返った」
「もう、何を言ってるのよ。お父様達を呼んでくるわね」
「母上、僕が行きます」
「いいのよ。今日はこっちで報告会よ」
えぇー、僕の部屋なんだけどー!
うぅ、拒否権はないよねぇ……
「テティス、大丈夫か?」
父上と兄上、それに母上。ばーちゃんまで入ってきた。
「はい、すみません。あれ? 姉上は?」
「今日は向こうに帰ったわ。あまり、こっちにいる訳にもいかないもの」
そっか。そうだよね。もうお嫁に行ったんだもんね。
「ラティアも心配していたのよ」
「母上、すみません」
次に姉上に会ったら謝ろう。
「さて、テティス。義母上から大体は聞いたが」
僕は詳しく学園と大聖堂で見た結果を話した。
大部分の人は隷属だった。幸いにも隷属だったら解呪さえすれば助かる。
それは、良かった。
でも、隷属だけじゃなく中毒の人達もいた。大聖堂に並んでいる人達と中にいた人達、それから大聖堂の神官達も皆そうだった。
後は、学園で聖女候補にぴったりと付いている男子学生達だ。
オネストとニキティスもそうだ。
僕が、聖女候補御一行と呼んでいた生徒達は皆、隷属と中毒だった。
そして……問題は、聖女候補と大司教だ。
「あの2人は眷属化されていたよ」
聖女候補と大司教、ドラゴンアイで見たらはっきりと見えた。
2人共、眷属化されていた。と、言う事は影で操っている奴がいるんだよ。ラスボスがいるんだ。
ゲームのシナリオの様に、僕が王族を処刑する事はない。それは阻止した。
でも、僕の代わりになる人を作ろうとしていた。それが、第2王子だよね。
第2王子にしてみれば、自分の家族だよ。それを処刑するなんて。
深く隷属しないと無理だろうね。だからきっと、聖女候補達は焦っている筈だよ。僕に毒を盛って殺そうと強硬手段に出たのがその証拠だよ。
「元はやはり聖女候補の家族しか考えられないね」
そうだ。ばーちゃんの言う通りだよ。あ、それにさぁ……
「ブラン、淫魔や妖魔、ヴァンパイアだと何年位生きるの?」
「そうだな。力にも左右されるけど数千年は生きるだろうね。ヴァンパイアなんて不老不死だと言われているよ」
マジかよ。だったら決まりだと思うんだよ。




