19.怒ったよ〜!
家に帰ったら誰もいなかった。
父と兄は調査で遠出らしい。今日は帰ってこないかも。
母は姉と出かけている。
ばーちゃんはまた禁書を調べに城に行っている。
「テテ、何だ? えらい疲れてないか?」
「ブラン、ちょっとね」
だって今日はいつもより学園で喋ったからね。ソフィアと沢山喋っちゃったよ。悶えてしまふー!
「何だよ。気持ちわりーな」
てか、ブラン。何食べてんの? サクサク良い音させてさ。
「テテの父上の新作なんだって。美味いよ」
ブラン、甘いの好きだよね。僕も食べよー。僕がおやつに手を伸ばすと……
「テテ、これは俺のだ」
ブランが羽を広げて阻止した。
ゲッ! ケチだ! ドラゴンなのに!
「ドラゴンは関係ないな」
いいよ。メイドさんに貰うから。お茶も飲みたいしぃ。
メイドさんに頼んだら直ぐに出てきた。
取り敢えず、お茶で一息。
「テテ、何があった?」
「ん? んー、リエン嬢とシャルロッテ嬢に婚約を解消したい、て相談されてさぁ」
「そうなのか? そんなにか?」
そうなんだよねー。あれ? このお茶ほんのり甘いね。変わってる。新茶なの? よく分かんないけど。
「テテ! 飲むな!」
「え? 何……あ……」
「テテ! テテ!」
駄目だ……クラッときた。気持ち悪い。
「テテ! 吐いてしまうんだ!」
そうブランが言って、僕の口の中に小さな手を突っ込んできて吐かせようとする。
「ゔ……ゔぇッ! ゔゔぇッ!」
僕は沢山吐いて、そのまま意識が朦朧として倒れた。
微かに周りがバタバタしているのが分かった。母と姉の声もした。
「私が来たから大丈夫よ!」
て、姉の声がした……
水かな? ポーションかな? 何か沢山飲まされた……
「……あ、あれ……?」
「テテ! 気がついたの!?」
「姉上……」
「テテ! 良かった!」
「ブラン……僕……」
「テテ、俺が気付くのが遅れたから、ごめん! ごめんよー!」
「え……? ブラン、そんな事ないよ……ブラン、ありがとう」
「テテ! 何言ってんだよ! 俺、守れなかった!」
「……ブラン、処置してくれた。守ってくれたよ」
「そうよ、ブラン。あなたがいなかったらどうなっていた事か。ありがとう」
「そんな! でも、良かった! 無事で良かったよー! テテ!」
ドラゴンが泣くなよ。大丈夫だよ。ありがとう。泣きながら飛びついてきたブランの冷んやりした肌を撫でた。うん、こんな時はもふもふの方が良いな。
僕は丸2日寝ていたそうなんだ。
母にも泣かれちゃった。父と兄が犯人を捕らえる為に忙しくしている中、顔を出して説明してくれた。
僕が変わってると思いながら飲んだお茶には毒が入っていた。
入れたのは、メイドだった。
ブランがその場で威圧を飛ばして動けなくしていた。メイドは大聖堂に通っていたんだ。
そこで、知り合った司教にもらった毒をお茶に入れて僕に飲ませた。僕に飲ませなきゃいけないと言っていたらしい。まさか、毒だとは思わなかったらしいけどね。
直ぐに父が動いて司教までは捕らえた。しかし、それ以上は追えなかった。
話せない様に精神干渉をしているのだろう。
それでも、こんなの丸分かりだ。大司教が絡んでいるだろう。もしかしたら、聖女候補もだよ。
まさか、僕を殺しにくるとは思わなかった。想定外もいいとこだよ。
やっぱ、ソフィア達に渡したブレスレットに状態異常無効も付けておいて良かった。ソフィアがもし……と思うとゾッとするよ。
「テテ、ごめんなさい。状態異常無効もつけておけば良かったわ」
「ばーちゃん、泣かないで。大丈夫だから」
「泣いてなんかないわよ!」
「お祖母様、その歳でツンデレは需要がないですよ。」
――バシッ
「痛ッ!」
また、余計な事を言って叩かれているのは兄だ。兄も学習しないよね。血筋かなぁ?
「よくもテテに手を出してくれたわ」
「ええ。お祖母様その通りです。父上、許せないですね」
「イデス、もちろん許すつもりはない」
「あなた、私もやりますわよ」
「お父様、お母様、私だって! テテをこんな目に合わせた報いを受けてもらわないと気が済みませんわ!」
「ラティ、その通りだわ。うちを敵に回した事を後悔させてやろうじゃない」
「お祖母様! やりましょう!」
あらら……みんなスイッチ入っちゃった。知ぃーらない。本当に、うちの家族を怒らせたら怖いよ? 僕は知らないからね。だって僕も怒っているんだ。
当然、僕の暗殺未遂事件が城にも知らせられた。
王様が怒った。王妃様が、ソフィアが怒った。ソフィアの兄の第2王子だけでなく、第1王子まで怒ってくれたらしい。親戚だからね。有難い事だよ。
第2王子、精神干渉されているのに、怒るんだね。まだ軽いと言う事かな?
僕が毒で倒れた日、兄は聖水を入手していた。姉が母と一緒に城に行って聖水を鑑定してきたそうなんだ。
姉の鑑定で何種類かの成分を混ぜている事が分かった。しかし、もっと詳しく確実な事を知りたい。中毒性のある物が使われていたのなら、それを中和するものも必要だ。
そこで、僕の出番だよ。
僕が飲んだ毒は、姉が直ぐに水属性魔法で出来るだけ解毒してくれて、ばーちゃんが戻ってきたら聖属性魔法で完全に解毒してくれていた。オマケにヒール付きだ。
だから、僕はもう大丈夫。
早速、メイドが持っていた僕が飲まされた毒と、手に入れた聖水を錬金術で分離し成分を抽出する事にした。
「テテ、休んでいなくて大丈夫なの?」
「姉上、もう大丈夫です。ブラン、手伝って」
「ああ! もちろんだ」
ブランが僕の肩に乗った。
先ずは毒だ。
僕はパチンッと指を鳴らした。
1本のスクロールが現れた。
「スクロールstart up……術式展開」
スクロールが空中でスルスルと広がり毒の小瓶の上に固定される
「分離……抽出……」
僕がスクロールに手を伸ばし魔力を通し予め登録してあった術式を発動させる。
次の瞬間、キラキラと光を放ちながら毒の成分が分離され抽出されていく。
「ブラン」
「あいよ」
ブランが手をかざすと、抽出された成分が其々に分かれて小さな細いガラス容器の中に入っていく。前世だと試験管の様な物だ。それを姉が受け取り鑑定して詳細な報告書を作成していく。
次は聖水だ。
「術式展開……」
スクロールがまた1本空中でスルスルと広がり聖水を入れた容器の上に固定される
「分離……抽出……」
僕がスクロールに手を伸ばし魔力を通すと同じ様に術式が発動し、次の瞬間キラキラと光を放ちながら聖水の成分が分離され抽出されていく。
ブランが手をかざすと、また抽出された成分が其々に分かれて小さな細いガラス容器の中に入っていく。それを姉が受け取り鑑定して、詳細な報告書を作成していく。
「テテ、ブランありがとう。お父様が戻ってきたら結果報告ね」
さあ、追い込んでやるよ! 反撃開始だ!




