10.気持ち悪いよ〜!
「テテ、私学園に行きたいわ」
「はぁッ?」
大聖堂から帰ってきてからの、姉の一言だよ。
「そうね。私も行きたいわ」
これは、説明するまでもなく祖母の言葉だね。
「ばーちゃん、あ……」
――バシッ!
「イッテー!!」
なんだよ! 今迄ばーちゃんと呼んでもスルーだったじゃない!
「テテ……」
「はい! お祖母様!」
「よしっ!」
「お祖母様、姉上。それは流石に無理ですよ?」
学園にまで来られるのは流石に嫌だ。絶対に阻止しなきゃ!
「あら、テテ。無理じゃないわ」
出た。出たよ。母だよ。おっとりしている振りして。ラスボス感が漂ってるよ~。
「テテ、そのお顔は何かしら?」
「いえ、母上。何でもないです。で、どうして無理ではないのですか?」
「だって、学校見学があるじゃない」
おや。超正攻法だね。その手があったよ。てか、その話の前にね。
「姉上、今日鑑定した結果を詳しく教えて下さい」
「そうね。それが先ね」
姉が大聖堂で鑑定した結果だ。
まず、精神支配と言える位の影響を受けているのは、大司教、司教、司祭の一部の者だった。
時間を掛けて干渉して支配しているんだろうね。大司教は自分が連れてきた聖女候補なのに、精神支配されているとはこれ如何に?
大聖堂に訪れていた民達はまだそこまでではなかったらしい。
でも、その方法。そして、解呪方法が分からない。そこまで精神支配をする方法が分からないと、適切な解呪方法も不明と言う事なんだって。
取り敢えず、ディスペルしてみたら駄目なのかなぁ~。万能的な解呪方法てないのかなぁ?
「テテ、魔法は万能ではないのよ」
はい。お姉様、その通りです。すみません。
「ん……少し思い当たる事があるのよ。だから、学園に行って実際にその聖女候補を見てみたいわ」
お! ばーちゃん凄いね。もう、当たりをつけているんだ。
「いや、まだ半々てとこね。たしか、聖女と言う程の聖属性魔法が使えないと聞いたけど?」
「あ、僕もそう聞いてますよ。だからまだ聖女候補なのだと」
「うむ。それが聖女候補の魔力量なのかどうかだね」
ん? 意味不明。
「だから、そこそこの魔力量がないと精神干渉はできないのよ」
なるほど、なるほど。じゃあ、僕なんかどうかな?
「ああ、テテは楽勝でしょうね」
そうなのか? じゃあ、覚えたいね。是非とも。
「馬鹿なことを考えているんじゃないわ。それより、解呪する方法を考えなさい」
ごもっとも。
僕には抗うすべもなく、翌日祖母と姉が学園に来た。
僕は、知らんふりしておこう。触らぬ神になんとやらだよ。
だってね、学園だって広い。僕が知らんふりしていたら学園見学の間位は楽勝でやり過ごせるだろう……なんて、軽く考えていた僕のバカ!
「テテー! 頑張ってるかしらー!」
止めてー! 姉よ、大声で呼ぶのは本当に止めて。手までブンブン振らないでッ!
「姉上、声が大きいです」
仕方なく、祖母と姉の元に行った。
「で、テテ。どこなの?」
「ばーちゃん、そうホイホイ都合良くいないよ」
「そう?」
そうだよ。当たり前じゃん……て、いたよ。超都合良く前の廊下をホイホイゾロゾロと歩いていたよ。なんたらホイホイを置いてあげよう! 一網打尽だよ。
「うわ、ばーちゃんあれ」
「ん? 何?」
祖母は僕が見ている方向を見る。
「あぁ〜ん……」
「へぇ〜……」
何? 2人してその反応は何? 何なの?
聖女候補の両脇には、お決まりの様にオネストとニキティスがいる。
あまりにも、じっと見ていたせいか聖女候補と目が合ってしまった。
「うわ、ばーちゃん目が合った」
「ほほん……」
聖女候補御一行は、進行方向を変えてこっちに歩いてきた。
マジなの! 祖母と姉がいるのに。当の2人はニヤニヤしてるけど。獲物を見つけた猛獣みたいで、僕はちょっとひいちゃうよ。
「あら、テティス様。おはようございますッ」
「あ、ああ。おはよう」
だからその語尾の『ッ』は何? あざとく頭をちょこっと傾けて両手を胸の前で合わせるお祈りポーズは何!?
「あ、ラティア様。おはようございます。お久しぶりです」
「おはようございます」
オネストとニキティスが姉に気付いた。
「おはよう。2人共、お久しぶりね」
姉の能面の様な美しい微笑みが怖い。
「あら、どなたですかぁ?」
「ミーア、テティスの姉君だ」
ニキティス、なにを自慢気に紹介してんの? お前の姉上じゃないじゃん。
「おや、もしかしてオネストにニキティスかしら?」
「はい。カリア様ですか? お久しぶりです!」
「ええ。2人共大きくなったわね」
もっと怖い微笑みがあったよ。
「どなたぁ?」
「ミーア、テティスのお祖母様だ」
また、ニキティスが紹介する。なんだ、こいつ。なんで仕切ってんの?
「まあッ! はじめまして! あたし、ミーア・エルキーオですぅ!」
うわ、駄目だ。気持ち悪くなってきちゃったよ。ぅぷッ……
「あら、あなたはどなた?」
「ラティア様、聖女候補様です」
オネスト、聖女候補様? 『様』って何だよ。『様』って。
「あら、テテ気分が悪いの?」
「あ……はい。お祖母様少し……」
「まあ! テテ、大丈夫? あちらで少し休みましょう。オネスト、ニキティスごめんなさいね。失礼するわ」
祖母と姉と一緒に移動しかけた時だ。
「やだ、まだ何もお話していないのに! あたしぃ、聖女候補のミーア・エルキーオなんですッ!」
僕は、聖女候補に両手でガシッと腕を掴まれた。
「……ッ!!」
とっさの事で避けられなかった。腕を掴まれた瞬間、ゾワッと悪寒が走った!
――パシッ!
「キャッ!」
「あなた! なにをしているの!?」
祖母が僕の腕を掴んでいる聖女候補の手を、持っていた扇で叩き注意した。
「えッ!? えッ!? だから、あたしはぁ聖女候補のぉ……」
「それが何だというのかしら? 格上で同じ年頃の異性の腕をいきなり掴むだなんて常識も知らないの?」
「あたし、ただお話をしようと思っただけなのにッ!」
「あなた、何を言っているの? 気分が悪いと言っていたのを聞いていなかったのかしら?」
「カリア様! 申し訳ありません! 悪気はないのです! ただ、お話したかっただけで」
「オネスト。あなたもおかしいの?」
駄目だ。悪目立ちしている。朝の登校時間にこれは目立ちすぎる。
「お祖母様、もういいですから」
「お祖母様、参りましょう。テテの顔色が真っ青だわ」
「そうね。参りましょう。オネスト、ニキティス、よく考えて行動なさい。正しい心持ちでいなさい」
僕は、祖母と姉と一緒に移動する。
「え? えぇ? あたしは聖女候補なんですよぉ〜!?」
僕達が歩いている後ろからまだそんな事を言っている聖女候補の声が聞こえた。




