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第二話① 勇敢で愚かな侵入者

「動物やらモンスターやらじゃないのか?」

「全員人間みたい。人数は5人!」


 優香は宙を見つめながらそう断言した。どこから情報を得ているのだろうか。そう疑問に感じたがその声色に動揺を感じ、質問を自粛する。


 代わりに俺は隣に控える妖怪たちに声をかけた。


「お凛、一つ目小僧。対応できるか」

「もちろんじゃ」


 お凛はたすき掛けをして準備万端のようだった。収納から薙刀も取り出している。

 一つ目小僧達も各々の武器を構えて頷く。


「相手はプロの冒険者ではなく、単なる野盗のようです。が、戦い慣れしてるのには変わりありません。どうかお気をつけて」

「抜かせ。わらわ等は人間ごときに遅れは取らぬ。心配無用じゃ」


 お凛は薙刀を振り回した。周りにいる一つ目小僧たちが慌てて逃げ出す。


「コラ!あぶないでしょ!」

「あぅっ……すまんのじゃ……」


 優香に怒られてお凛は少しシュンとした。


●○


 ダンジョン奥の小部屋に入る。小部屋と言っても2人が入るには十分すぎる広さだ。ダンジョンコアには侵入者達の様子が映し出されていた。


「これが侵入者か」


 侵入者は全員男。統一感のない格好だが、野蛮な雰囲気は一様に皆同じだった。

 通路は戦場になるのも見越して広めに作ってある。大体横幅は2メートル。侵入者達は先頭に1人、その後ろに2人、さらにその後ろに2人並んで歩いていた。


 先頭の男は短剣を構えている。中列の2人は剣を持っており、後列の2人のうち1人は弓を持っていた。もう片方は手ぶらだが、腰に剣が刺さっている。


「アーチャーがいるのは厄介だね」


 隣で優香が呟いた。確かに、後方の安全な場所から攻撃してくる敵はかなり厄介なのは想像に難くない。


 男達は分かれ道に差し掛かると二言三言話し合い、右側の通路を通っていく。


○●


「だいぶ奥まで続いているみたいですぜ、兄貴」


 先頭の男が中列のハゲた男に声をかける。


「間違いねぇ、自然にできた場所じゃねえな。お前等、注意しろ。ここはダンジョンだ」


 ハゲた男が周りの男達に声をかける。男達には顔を合わせると、ニヤリと笑い合った。後列の男達もその手に武器をとる。金属のこすれる音がダンジョンの中に響いた。


 この男達はこの辺り一帯を縄張りにしている【ダカロン団】のメンバーである。ハゲ男の名前はガラ・ズースマン。窃盗14件。強盗7件。強姦3件。殺人1件を犯したB級犯罪者。


 ガラは厄介なことに頭のキレる犯罪者である。彼は縄張り内に見たことのない洞窟があるのを発見し、すぐさま部下を揃えて乗り込んできたのだ。


「ダンジョンはいい……死体は勝手に吸収してくれるし、ダンジョンマスターを捕まえれば好きにモンスターを使役できるんだ。これを逃す手はないぜ……」


 ガラは目を細める。男の脳裏にはダンジョンをうまく活用し、世の中を欲しいがままにする自分の姿が映っていた。


「兄貴!敵が!」


 部下の声でハッと我に帰る。見れば5つの人影が立っていた。生まれたてのダンジョンはゴブリンが多いと聞く。しかしその容姿はゴブリンとは似ても似つかないものだった。


「な、なんじゃあ、ありゃ」


 男達の前に立ちふさがったのは5人の子供。顔面にはたった1つの目玉が付いているだけだった。


「モンスターっすかね?」

「あんなモンスター俺は知らねーぞ!?」

「なぁ、もしかしてサイクロプスの子供なんじゃ……」

「兄貴、ここは一度撤退した方が……」


 異様な敵に目を見張り、口々にまくし立てる部下達。


「馬鹿野郎! 狼狽えんじゃねぇ!」


 ガラは部下達を怒鳴りつける。部下たちの顔が恐怖で引きつった。


「所詮生まれたてのダンジョンだ。強いモンスターが生まれるわけねぇ。見た目に惑わされんな!」

「は、はぃっ!」


 化け物も恐ろしいが怒ったガラはもっと恐ろしい。野盗たちは武器を構えて化け物達を迎え撃つ。

 一つ目小僧と3メートルほどの距離まで近づき睨み合う。先に動いて先手を取るか、あえて後手に回ってカウンターを狙うか。


 沈黙が洞窟内を包み込んだ。




 そして乱闘は始まる。




 最初に沈黙を破ったのはガラの号令でも1つ目小僧の土を蹴る音でもなかった。


「ぐっ!?」


 後列で弓をつがえていた弓使いのうめき声。


 反射的に野盗達の視線が弓使いに集まる。


 弓使いは驚いたような顔をして自分の胸元を見つめていた。胸元からは尖った刃物が飛び出し、血を滴らせていた。


「あ……なん………」


 グシャリ、とを音を立てて刃物が引き抜かれた。弓使いはその場に崩れ落ちる。


「うむ、作戦成功じゃ」


 そこに立っていたのは血のように真っ赤な着物に身を包んだお凛。顔を高揚させて色っぽく笑った。だが、それに見とれるほど野盗達もアホではない。すぐさま前を向く。


 刃物のぶつかる音が響いた。剣、槍、棒の近距離武具を使う一つ目小僧達が一斉に襲いかかったのだ。


「があっっ!!?」


 1人の男の腕に刃物が突き刺さる。ナイフのような刃物の先に鉄の鎖がついた武器。鎖鎌は思わぬ飛び道具としてその役目を果たしていた。


「うがっ!?」


 腕に刃物が刺さった男は空中でぐるりと一回転する。

【柔術】のスキルを持つ一つ目小僧の一本背負い。土の地面に叩きつけられた男は、駆け寄ってきた【鎖鎌術】の一つ目小僧に心臓を貫かれて絶命した。


「畜生! なんだこいつらは!!」


 背後から襲いかかってきた謎の女の猛攻をなんとか受け止めながらガラは叫んだ。


「アガッ!?」


 また1人の野党が倒れた。


「あ、兄貴! た、助け……ああああああぁぁぁぁ………………」


 ガラの背後でまた1人の悲鳴。これで残る野盗はリーダーのガラのみ。


「うらあぁぁぁぁっ!」


 ガラはお凛の一瞬の隙をつき、薙刀の持ち手を剣で払った。馬鹿力に圧倒され、お凛の体勢が崩れる。


「おっと」


 お凛は少し驚いた顔をし、体を後ろにずらす。


「どけぇっ!」


 ガラは剣を振り回し、出口に向かって走り出した。


 生き延びる、生き延びる、生き延びる。


 死んだ部下のことなど忘れ去り、ガラは全力で出口を目指す。分かれ道を戻り、残り20メートル。出口の光が見えた。後ろから足音もない。


 助かった! そうガラが確信した時。


「うおおっ!?」


 世界がぐるりと回転した。ガラは勢いよく転んだ。いや、転ばされた。


「な、なんだ!? なんだこれは!?」


 ガラの足には黒い紐が絡み付いていた。細長いその紐は何十本もガラの足に絡み付いている。ガラは数秒それを凝視する。


「……髪の毛?」


 そう呟いた瞬間ガラの体はダンジョンの奥へと引き摺り込まれていった。


「うわああああああああああああ!!!???」


 ものすごい勢いで壁が後ろへと流れていく。馬に引きずられているかのようにガラはなすすべもなかった。

 ガラは引きずられつつもなんとか顔を上げる。

 そして見てしまった。


 自分の足に絡みつく黒い毛。それは先ほど戦闘をした真っ赤な服の女の髪と繋がっていたこと。女はこちらを向いておらず、背中を見せていること。


 そして、女の後頭部にある巨大な口を。


「ギィヤァァァァァァァァァ!?!?」


 ガラの悲鳴はその後数分に渡って途切れることなく続き、いつの間にか消え去っていた。

モンスター豆知識コーナー No.1【サイクロプス】


「そういえば、サイクロプスの起源も一ツ目小僧と一緒で単眼症に由来してるの?」

「いいや、前にも言ったと思うが、サイクロプスの元ネタは神様だ」

「へぇ。こっちの世界では力は強いが頭の弱い中堅モンスターって感じだけど」

「あー、分からんでもないな。RPGゲームとかの影響で最近ではそんなイメージがある。だが、元を正せば『ギリシア神話』に登場する神様なんだよ」

「ギリシア神話か。ゼウスとかポセイドンとか出てくる神話だよね」

「ああ、とは言っても下級神だから有名ではないけどな。天空神ウーラノスと大地母神ガイアの息子たちで実は三兄弟なんだ。名前はアルゲース、ステロペース、ブロンテース」

「へぇ、個体名まであるんだ」

「だが、その醜さ故に父親にタルタロス——いわゆる地獄の更に下に閉じ込められてしまうんだ」

「醜さ故って……ひどいお父さんだね」

「やっとゼウスに助けられて鍛冶屋として手に職つけて頑張ることになってもアポローンに八つ当たりで殺されちまうっていうかわいそうなモンスターなんだ」

「ギリシア神話の神々って身勝手だね。それで信仰の対象になるもんなの?」

「そうかもな。だが、その神々の人間らしさが世界中の人々を惹きつけてやまないのかもしれない」

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