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第一話② 妖怪ダンジョンの誕生

 妖怪。簡単に言うのであれば、日本で信じられていたモンスターの総称である。天狗や河童と言った有名なモノをはじめ、名前しか判明していない詳細不明の怪異まで、その種類は多岐にわたる。


「お兄ちゃんの元の世界での知識がダンジョンシステムに影響を与えたって事? でも、ダンジョンシステムのコントロールは超次元委員会にコントロールされているはずだし……」

「細かいところは良いじゃねえか、優香。仮に妖怪が出てきてもダンジョンとして機能すれば問題ないんだろ?」

「たぶん大丈夫だとは思うけど……」


 ペラペラと辞典をめくる。妖怪好きの俺としては眺めてるだけでも面白い。


「さっきのゴブリンのDPは50だったよな。じゃあ同じポイントのこいつを召喚してみるか」

「これって、一つ目小僧?」


 図鑑に添えられた画像には顔面に大きな目玉のついた坊主頭の子供が写っていた。長い舌をペロリと出している。人間に似た姿をしたかなり有名な妖怪だ。


「召喚、【一つ目小僧】」


 そう唱えると、部屋の中央に小坊主が現れた。


「おおっ!」


 俺は思わず声を上げる。いくら妖怪に精通しているからと言って妖怪を実際に目にしたことはない。形容しがたい感動を覚えたが、優香の方はギョッとした表情だ。この感動を分かち合えないとは悲しい妹だ。


 現れたのは10歳くらいの小坊主。丸刈りの頭に白衣と腰衣。一休さんみたいな見た目だ。俺の身長と同じくらいの鉄の棒を右手でついていた。そしてやはり異様なのはその顔。大きな目玉が顔の真ん中に1つだけ付いている。ある程度デフォルメされた漫画やアニメの世界と違って実際に目にするとものすごく不気味だ。


「この世界で言うのなら、サイクロプスの子供だね。お兄ちゃん知ってる?」

「ギリシア神話に登場する単眼の巨人だな。こっちの世界には存在するのか」

「できたてのダンジョンにはまず現れないけどね。この子のステータスはどんな感じ?」

「分かった。【鑑定】」


—————————

種族 一つ目小僧

レベル1

体力 85/85

魔力 52/52

筋力 60

知力 43

速力 71


スキル

【棒術LV3】

—————————

「【棒術LV3】? スキルに変なのがついてるな」

「棒術!? こっちの世界には無いスキルだね。私の【プロレスLV4】と同じだ。妖怪達はこっちの世界のルールに合わせるんじゃ無くて、私達の世界にいたままの姿で現れるみたい」

「それは、得なんじゃないか? こっちの世界の連中からしてみたら。まったく未知の敵が襲いかかってくるって事だろ?」

「そうだね。でも、通用するかどうかは分かんないよ。棒術は見ての通り、殺傷能力は槍や薙刀に劣る。中距離戦闘は得意だけど近距離では応用が利かないし」


 優香はプロレスマニアだが、格闘技や武道全般に素養がある。俺が妖怪マニアで妹が格闘技マニアと、血は争えないらしい。


「そう言えば、LV3ってどういう意味だ?ちゃんと戦えるんだよな?」

「うん。LV3なら問題ないと思う。この世界ではスキルはLV1からLV10まであってその程度で強さを図れるの。LV1なら素人、LV3なら一人前、LV6なら達人クラスかな」

「LV6でもう達人なのか?」

「意外とこの世界のスキルは厳しいんだよね。過去にLV8に到達した剣士が1人いたらしいけど、それっきりだね」

「ふーん、じゃあ俺たちの【言語能力LV10】ってのは」

「もちろん、相当凄いよ。元の世界だったら全世界の言語はもちろん、ヴォイニッチ手稿だろうが楔文字だろうが解読できるだろうね」

「おいおい……十分チート能力じゃねえか。じゃあこの世界じゃ言葉が通じず困るなんてことはなさそうだな」

「それどころか翻訳家として一財築けると思うよ。この世界、文明レベル的には10世紀くらいだろうし」


 かなり時代の遅れた世界に来たらしい。まあ、科学力が発達していない方がダンジョンを運営する上では楽なのだろうが。


 優香曰く、一つ目小僧のステータスは、ゴブリンのステータスと似ているらしい。少し身体能力は劣るがスキルや知能で帳尻が合っているそうだ。


「これでゴブリンと同じDPなら妥当だと思う。最初のダンジョン運営は一つ目小僧中心でました方が良いんじゃない?」

「そうか? せっかくなんだし、他の妖怪も見てみたいけど……」

「止めといた方が良いよ。妖怪が当てはまるかは分かんないけど、人間だってゴリラと一緒に戦ったりなんてしないでしょ。同じ種族同士が一番連携がとりやすいの


 確かに、優香の言うとおりかも知れない。トラやゴリラなんて近くにいるだけでも恐ろしいだろう。


「分かった。じゃああと4人ほど増やしてみよう」


 DPを200消費して現れたのは4人の一つ目小僧。服は同じだが、顔立ちはそれぞれ違うし身長も違いがある。更に持っている武器が全然違っていた。1人は剣。1人槍。1人は鎖鎌。1人は手ぶらだ。ステータスを見てみると【剣術】【槍術】【鎖鎌術】【柔術】とある。



「一人一人スキルが異なるのか。こりゃガチャみたいで面白いな」

「元の世界は武術も多様だからね。ゴブリンだったら基本【剣術】たまに【弓術】があるくらいでこんなに多様性は無いけど」

「鎖鎌とか本当に戦力になるんだろうな」

「大丈夫だと思うよ。詳しくは今度おまけコーナーでやるね」

「なんて?」

「みんな丸刈りでカワイイ~」


 優香が一つ目小僧達の頭を順番になでる。確かに、後ろ姿だけなら少年野球チームだ。だが一つ目小僧達は口を一文字に結んでぼんやりと空を見つめていた。


「全く喋らねーな」

「ダンジョンモンスターだからね。普通のモンスターと違って意識は無いの。生物と言うより高性能なロボットに近い」

「そりゃ張り合いがないわけだ」

「ただ、一つだけ自我を持たせる方法があるんだよね」

「お、まじで?」

「まじで。ダンジョンの階層ボスに指名することでモンスターに意識を持たせることが出来るの」

「何じゃそりゃ」


 優香曰く、ダンジョンは二階層、三階層と下へ下へとステージを伸ばせるらしい。そしてそれぞれの階層にはダンジョンボスというものを設置でき、ダンジョンボスに指定されたモンスターは自我を持てる事になっているそうだ。


「今は一階層しかないので一匹だけしかダンジョンボスに指名できないね」

「一つ目小僧の1人をボスにしてもいいが……どうせなら別の妖怪にしてみるか」


 俺はパラパラと辞書をめくる。そしてあるページに目を止めた。


「決まった? のこりDPは750しかないけど」

「ああ。ダンジョンボスは消費DP500の【二口女】で行こうと思う」


妖怪豆知識コーナーNo.1 【一つ目小僧】


「それにしても、やっぱり一つ目って不気味だね。実際に見ると凄く怖い」

「確かにな。俺の世界でも単眼の怪物ってのは色々な国の伝承に残されていた。その背景には【単眼症】という障害が深く関わっていると言われている」

「単眼症?」

「ああ、先天的な重症奇形の一つで生まれつき眼球が一つしかないんだ。正確に言えば脳の障害が原因でそうなっちまう。呼吸器系にも問題が生じるためほとんどが死産となってしまう」

「じゃあ一つ目小僧達が子供の姿をしているのって……」

「そうだな。単眼症の方は現代最新医療を持っても2年以上生存した事は無い。子供のまま死んでしまうから、子供の姿をした妖怪として描かれているのかもしれないな」


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