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第一話① 妖怪ダンジョンの誕生

「……お?」


 世界が暗転し、すぐに新たな光景が目の前に広がった。今までのは全て幻覚で、俺は今春眠から目を覚ましたところ……とかいうオチではないらしい。


「ここは……どこだ? 異世界なのか?」


 俺が立っていたのは4畳半ほどの狭い部屋。壁も床も天井も茶色い土がむき出しになっている。隣には優香もいて俺と同じようにキョロキョロとあたりを見渡していた。


「出入り口がない。光源が無いのに明るい。不思議な部屋だな。まさか、ここが……」

「そうだよ、お兄ちゃん。ここがダンジョン。私達の新しい家」

「ここが……?」


 改めてあたりを見渡す。生き埋めになったとしか思えないほど閉鎖的で狭い空間だ。


「とりあえずお兄ちゃん。いきなりだけど【ダンジョンコア】に触ってみて」


 優香がパチリと指を鳴らすと、部屋の中心にバスケットボール大の光る球体が現れた。


「うわっ! なんだこりゃ」

「それは【ダンジョンコア】。このダンジョンの運営をして行くために欠かせない設備みたい。ダンジョンマスターが手を触れて初めて動くの」

「な、なるほど。てかあのギャル神、俺に直接【異世界知能】を覚えさせてくれりゃあよかったものの……」

「なんか、お兄ちゃんは脳みそが小さくて難しいみたいよ」

「………………」


 聞かなかったことにしよう。俺は優香に言われるがまま、豆電球のようにぼんやりと光るダンジョンコアに恐る恐る触れた。


「あ、あったかい」


 湯たんぽを思い出した。そう、貧乏な俺達兄妹は真冬だろうと湯たんぽを抱えることくらいしかできなかったのだ。俺が瞬時にそんなひもじい記憶を想起していると、部屋に無機質な機械音声が響いた。


『【転移者 マコト】をダンジョンマスターに任命します』

「うわびっくりした」

「よし、これでお兄ちゃんは晴れて正式なダンジョンマスターになれたみたいだね」

「で……こっからどうしたら良いんだ?」

「うーん、まずはダンジョンについて説明するね。ダンジョンマスターの主な仕事はダンジョンの運営をすること。

具体的にはモンスターやトラップをダンジョン内に設置し侵入者を殺害することでDP(ダンジョンポイント)を稼ぐの。そしてDPを使ってさらにダンジョンを拡張していくわけ。DPはモンスターを召喚したりトラップを設置するために必要なポイントのことね」


 お金、に近いものなのだろうか。優香は更に話を続ける。


「入手方法としては大きく2パターンあるの。一つ目にダンジョン内に侵入者が現れた時。二つ目に侵入者を殺害した時。侵入者を殺害した方がたくさんポイント貰える仕組みになってるの」

「なるほど。こっちから攻めたりするのは意味ないのか……」


 ダンジョンを作る。侵入者を倒す。ダンジョンを大きくする。侵入者を倒す……を繰り返していくってことか。

 ギャル神から言われた『他の転移者を倒す』って話もきになるところだが、とりあえずはダンジョンを作らないと始まらないのだろう。


「じゃあ早速、『ダンジョン』ってのを作ってみるか。何から始めれば良いんだ?」

「とりあえず簡単な【モンスター召喚】からやって見ようか。私が実演してみるから見ててね」

「分かった」


 優香はダンジョンコアに近寄る。


「モードチュートリアル……。【モンスター召喚】」


 優香がそう言うとダンジョンコアは紫色に光った。


「おおっ!?」


 ダンジョンコアの上空にふわふわと1冊の本が浮かんでいる。

 優香は紫色のその本を手に取った。


「これが【モンスター辞典】。この世界に存在するモンスターの情報が載ってるの。4万8165種が網羅されてるんだ」


 優香はパラパラと辞書をめくった。怪物の写真とともに細かな文字がずらりと並んでいる。


「その写真を選択したらモンスターが召喚されるのか?」

「そう言うこと。例えばー」


 優香は辞書に目を落とす。

 そのページには【ゴブリン】と言う文字と共に緑色の肌の人間のような生物の写真が載っていた。


「【ゴブリン】」


 優香がそう言うと部屋の中央に写真の生物が現れた。身長は50センチほど。ボロボロの布切れを腰に巻いている。


「この子はゴブリンっていうモンスター。弱いけど。比較的知能が高くて、使い勝手が良いんだって。他のダンジョンマスターからも人気が高いらしいよ」

「へぇ、面白いな。俺達の元いた世界ではヨーロッパで知られている邪悪な妖精だったんだが……この世界では実在してるのか」

「やっぱり詳しいんだね」

「まあな。モンスターだって見方によっては西洋妖怪だからな」


 何を隠そう、俺は大の妖怪マニアなのである。死んだ父親が妖怪好きだったこともあり、俺は英才教育を受けていたのだ。母さんの必死の抵抗で妹の優香の方に妖怪オタクは遺伝しなかったが、残念ながらプロレスマニアに目覚めた訳だが。


「じゃあお兄ちゃん、早速何かモンスターを召喚して見てよ」

「ああ、分かった」


 俺が承諾するとゴブリンは消えてしまった。どうやら本当にただの手本だったらしい。


「現在のDPは1000ポイントね。ゴブリンは1体50DPだから20体は召喚できる計算だけど……」

「分かった。じゃあゴブリンを1体召喚してみよう。えーっと……【モンスター召喚】」


 ダンジョンコアがオレンジ色に光った。ダンジョンコアの上空にはオレンジ色の本がふわふわと浮かんでいる。


「あれっ? さっきは紫色だったよな?」

「ですね……何かのバグかな?」


 とりあえず俺は辞書を手に取る。ふわふわと浮いていたはずの辞書がずっしりと重みを増した。うむ、不思議である。


「な、なんじゃこりゃ……」


 適当に開いたページには【手長足長】と書かれてあった。異様に足の長い男が異様に腕の長い男を肩車している絵が添えられている。


「な、なに? このモンスター!? 私知らないんだけど」

「これって……」

「薄気味悪いっ。やり直そう!」

「あ、ああ……」


 優香は俺の手から辞書をひったくるとダンジョンコアに投げつけた。辞書は一瞬で消える。そんな乱暴にせんでも……。


「お兄ちゃん、もう一度やってみて」

「あ、ああ。【モンスター召喚】」


 オレンジ色の輝きと共に現れたのはまたしてもオレンジ色の辞書だった。


○●


4回目。


「一回電源落とすね」

「電源とかあんの?」


●○


6回目。


「【取扱説明書】」


 アリアはダンジョンコアに呼びかけ、出てきた分厚い本を読み始める。


「よくある質問……載ってないね」


 家電かよ。


○●


 9回目。


「まったくわからーーーん!!」


 ポーンと音がしそうなほど見事に匙を投げ出した優香。俺は改めてオレンジの辞典を取り出した。


「もう……どうすればいいんだろう。神ギャルちゃんに連絡取れる方法があればいいんだけど。このままじゃ私達この狭い洞穴の中で餓死だよ……」

「いや、そうでもなさそうだぞ」


 俺は辞典をパラパラとめくりながら答えた。


「これ、妖怪辞典だ。ここに載ってる妖怪達、召喚できるんじゃないか?」


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