第98話 魔人転生1
※少し過激な描写があります。苦手な方は読み飛ばし推奨。
【魔界転生者サイド】
俺の名前は九条豪。
九条家という財閥の御曹司として生まれ、なに不自由ない暮らしを送ってきた。
女はいくらでも寄ってきたし、金はいくらでもある。
俺は20代にして、この世のすべてを手に入れてしまったような気になっていた。
しかし、それゆえに……満たされない。
「ふう……つまらんな……」
どんなに高貴な女を抱いても、どんなに高級な食事をしても、なぜだか少し物足りない。
俺はその渇きを潤すように、次々に湯水のように金を使った。
タワーマンションの最上階、そこから底辺どもを見下ろしながら、最高の女と朝を迎える。
たしかこいつは、一流アイドルだかなんだったかだったはずだ。
もはや毎日日替わりでいろんな有名人がやってくるから、誰が誰だかわからない。
「おい、もう飽きた出ていけ」
俺はその女を、ベットから追い出す。
「あん、九条さま……どうして」
「うるさい! 消えろ! ゴミめ……!」
「ひぃ……」
まったく、どうせこいつも僕自身には興味なんてないんだ。
くそ、満たされない。
「ああ、どうして僕はこうも飢えているんだ……」
僕はとにかく、刺激に飢えていた。
この刺激が満たされるのなら、なんでもよかった。
「そうだ……おい、待て」
「え…………?」
服を着て帰ろうとしていた女を、呼び止める。
「おい、こっちへこい」
「あ…………!」
そして俺は、その女を力任せに床にたたきつけた。
「な、なにを……!?」
「こうするんだよ!!!!」
近くにあった数十億円する壺を手に取って、女の頭蓋に向けて投げつける。
「いやぁああああ!!!!」
「はっはっは…………!!!!」
女の頭を踏みつけにして、何度も何度も、ぐちゃぐちゃになるまで踏みつける。
今までにないような高揚感を覚える。
人を殺すのはこれが初めてだった。
「はっはっは……なんでもっと早くにこうしなかったんだろう……! 人を殺すのがこんなにも気持ちいいとは……!」
しかし、数秒たって、頭が冷えてくる。
「ふぅ…………くそが!!!!」
僕はその辺にあった家具を殴りまくった。
結局のところ、こんなのは性交と同じで一時の快楽でしかない。
その瞬間は気がまぎれるけれど、根本的な解決にはなっていない。
僕の飢えは、さらに加速するばかりだ。
「うああああああ!!!! もっと、もっとだ……! もっと僕に刺激を!!!!」
人殺しくらいでは生ぬるい。
僕にとっては、人殺しでさえも金で解決できることだ。
だからなんのリスクもない。
僕には失うことすらできないのだ。
ギャンブルをしようにも、僕の性質が、生まれながらの品性が、金をすぐに惹きつける。
いくど金を使おうと、湯水のように湧いてくるのだ。
それが、生まれながらの強者――九条家の人間だ。
「どうすればこの渇きは埋められる……?」
その時だった。
僕の頭のなかに、謎の声が聞こえてきた。
「よろしい、ならばその能力、わが下で存分に発揮してくれ……!」
「だ、誰だ……!?」
僕の頭の中に、直接言葉が流れ込んでくる。
これは……どこから聞こえているんんだ……!?
手の込んだいたずらか!?
「うわ……! なんだこれは……!?」
そして僕の足元に、なにか得体のしれない文様が浮かび上がる。
これは……漫画とかでよくあるやつか……!?
魔法陣のようなものに、僕の足が吸い込まれていく。
「うわあああああああああああ!!!!」