第55話 二度目の決闘
「いや、俺がその勇者だ」
「は…………?」
カナンは俺の言葉に、驚いていた。
「俺はミレージュの勇者だ」
「…………!? アレスターは……!?」
「残念だが、アレスターは死んだ」
「そ、そうか……」
ほんとうにこの街の連中にはなにも伝わっていないんだな……。
まあそれほど離れているし、仕方のないことかもしれないが。
「まあ、そういうわけで俺が勇者のロインだ。よろしく」
「あ、ああ……」
そういえば自己紹介をしていなかったと思い、カナンに握手を求める。
彼女は戸惑いながらも、俺の手を握り返した。
「それでだ、俺の要求は三つだ。このギルドを使わせてほしい」
「それは無理だな」
どうやらカナンはまだ俺を警戒しているようだ。
まあ、ギルドを使うということは、かなりの利権も絡んでくるからな。
俺としては、ここのギルドでしばらく素材を集めたいんだが……。
勝手に狩にいくことは、禁止されている。
少なくとも、その地域のギルドに許可を得なければ、他地域の冒険者はなにもできない。
「それから、ミレージュを侮辱したことを撤回してもらいたい」
「それもお断りだね。なんでアンタのような弱い男の言うことを聞かなきゃならないんだい?」
どうやらカナンの見立てでは、俺は弱い男なのだそうだ。
まあ確かに、俺自身は非力だ。
装備品の力というので間違いない。
だが、このカナンという女性はどうにも勝気がすぎるというか……。
「それから、アンタに魔王軍討伐に協力してもらいたい」
「はぁ…………!? あ、あたしにかい……?」
「そうだ、ここの1位なんだろ? だったら、人類のために力を貸してくれ」
ミレージュ周辺で冒険者を募ろうにも、連中はアレスターたちがやられたことに恐れをなしているせいで、あまりいい人材が集まらないのだ。
それほど、アレスターの天下は長く、影響力も大きかった。
「ふん、まあいいだろう。あんたが私に勝てたらそうしてやろう」
やはりというか……カナンは俺にそう言って、決闘を申し込んできた。
こちらとしても、それで決めれるなら望むところだ。
「いいね。どっちが本当の1位か、決めようじゃないか」
俺はそう言って、カナンを表に出るように指で促した。
「ロイン……大丈夫なの!?」
クラリスが心配そうに訊く。
「ああ、俺は大丈夫だ。それに、こうしないとここの連中は納得しそうにない。力で証明しないとな……」
「そうね……絶対に、勝ってね!」
「ああ、そのつもりだ」
俺とカナンは、ギルドの前に出て剣を構えた。
「おおおおお! 決闘だ! 決闘だ! カナンが決闘だ! 殺せ!」
と野次馬がたきつける。
そういえば、アレスターのときもこうやって決闘をやったな……。
「さあ、行くぜ……!」
戦いの合図が鳴った――!





