SS アルトヴェール建国記念祭 ~祝福の光と家族の笑顔~
【読者のみなさん、お久しぶりです。久しぶりに確定レアドロップのSSを書いてみました。だいぶ完結から間が空いているので、設定など忘れている部分もあり、矛盾などあるかもしれませんが、楽しんでもらえたらうれしいです】
アルトヴェール城のバルコニー。ここから見下ろす城下町は、建国記念祭を迎える熱気で朝からムンムンしていた。色とりどりの旗が風に踊り、屋台の準備をする威勢のいい声や、どこからか流れてくる陽気な音楽が、ここまで響いてくる。
俺、ロイン・キャンベラスは、この国の王様で、かつては魔王なんていう物騒なやつも倒した勇者だ。まあ、自分ではそんな大層なものだとは思ってないんだけどな。
「すごい活気だな。記念すべき大事な建国記念祭、成功するといいんだが」
隣には、俺の愛する妻の一人、サリナがそっと寄り添ってくれている。彼女の優しい眼差しは、俺にとって何よりの癒しだ。
「大丈夫ですよ、ロインさん。みんな、この日をずっと楽しみにしていましたから。あなたが築いてくださった平和のお祝いですもの」
サリナさんの言葉に、自然と頬が緩む。
「俺だけの力じゃないさ。サリナさんや、みんながいてくれたからだ。…よし、今日は王様はお休みだ! 家族サービスに徹するぞ!」
「ふふっ、頼もしいです、パパ」
サリナさんが悪戯っぽく微笑む。その笑顔だけで、俺はもう幸せいっぱいだ。
城の食堂に降りると、案の定、我が家の小さな騎士たちが大騒ぎしていた。
「お父様! 早くお祭りに行きましょう! 一番乗りですわ!」
長女のロザーナが、おニューのドレスをひらひらさせて俺に突撃してくる。サリナさんに似て、しっかり者だがお転婆なところもあるんだよな。
「ロザーナちゃん、待って。カインも一緒よ」
クラリスとの間に生まれたキャロラインが、金髪を揺らして、弟のカインの手を引いている。俺とクラリスの体質を受け継いで、生まれた時は心配したけど、今じゃすっかり元気だ。
「おまつり! おまつり!」
カナンとの息子、カインも目をキラキラさせてお祭りモード全開だ。
「もう、キャロラインったら。カイン、転ばないようにね。……ロイン、おはよう。準備はいい?」
クラリスが優しい母親の顔で微笑む。あの引っ込み思案だったクラリスがなぁ…。
「おう、ロイン! 今日はパーッと楽しもうじゃないか! 私もカインも、気合十分だ!」
祭りの法被を粋に着こなしたカナンが、ニカッと笑う。
よし、俺たち家族の、賑やかで幸せな一日が始まるぞ!
城下町は、まさに人の波。メインストリートには美味そうな匂いを漂わせる屋台がずらりと並び、音楽隊の演奏やら大道芸やらで、どこもかしこもごった返している。
「見てください、お父様! あの『スライムわたあめ』、わたくし欲しいです!」
ロザーナが指さす先には、カラフルなスライム型の巨大わたあめ。あれは確かに美味そうだ。
キャロラインは『ミニスライムすくい』の屋台に夢中。小さなポイで、次から次へとミニスライム(特殊な寒天らしい)をすくい上げてる。おいおい、店の人が青い顔してるぞ。
「キャロライン……! お店の人、困ってるじゃないの。少しでいいのよ?」
クラリスが苦笑いしてる。まあ、俺の運とクラリスの器用さ(あとちょっとの怪力)を受け継いでるからな、キャロラインは。
カインはカナンに肩車されて、射的(コルク銃)に挑戦してたが、見事に隣の屋台の看板に命中させてた。「あちゃー!」ってカナンが頭を掻いてる。よし、父ちゃんのいいところを見せてやるか。
「はは、これくらいなら元攻撃力ゼロの俺でも、運だけでなんとかなるもんだ」
俺が一発で特大の景品(伝説の魔獣のぬいぐるみ風)を仕留めると、カインは大喜びでそれに飛びついた。周りからは「さすがロイン様!」なんて声も聞こえてくる。いや、ただの運だって。
少し離れた通りでは、ドロシーとネファレムが、モモカとエレナに連れられて屋台を物色中だった。
ドロシーは「まあ、この『虹色リンゴ飴』、わたくしの時代には考えられないほど美しいですわ……ネファレム様、一ついかが?」なんて言いながら、目を輝かせている。
ネファレムは相変わらず冷静で、「……糖分の過剰摂取は推奨しない。だが、祭りの雰囲気という触媒が、一時的に理性のタガを外すのだろう。……一つだけなら」とか難しいことを言ってるけど、顔はちょっと楽しそうだ。
エレナが「あら、あちらでグフトックさんが何か配っていますよ?」と指さす先には、祭りの法被を着たグフトックが。子供たちに風船を配ったり、道案内をしたりと、額に汗して働いている。昔のあいつを知ってるから、今の姿を見ると、なんだか感慨深いものがあるよな。
俺が通りかかると、グフトックは慌てて駆け寄ってきた。
「ロ、ロイン王! こ、これはその……皆様に喜んでいただければと……!」
「グフトック、板についてきたじゃないか。無理するなよ」
「ははっ! ロイン王にそう言っていただけるとは光栄の至り!」
本当に変わったよな、こいつも。
一際派手な屋台は、「ガントレット兄弟の炎の鉄板焼き~伝説素材を添えて~」だ。
「兄貴! 焼き加減が甘いってんだ! もっと魂を込めろ!」
「うるせぇ! お前こそ、秘伝のソースの塗り方が雑なんだよ! この繊細な味が台無しだろうが!」
ドレッドとレドットが相変わらず大声で喧嘩しながら、見事な手つきで鉄板焼きを作っている。
隣では、ベラドンナさんが華やかなエプロン姿で特製ハーブドリンクを売りながら、「はいはい、夫婦漫才はそこまでにして。お客さん、うちの『癒しのハーブクーラー』で一息どうかしら? この二人の暑苦しさも吹き飛ぶわよ」なんて言って、見事に場を仕切っていた。あの二人を扱えるのは、やっぱりベラドンナさんだけだな。
陽が西に傾き、空がオレンジ色に染まる頃、城下の広場はさらに多くの人々でごった返していた。大きなやぐらが組まれ、松明の暖かな光が辺りを照らし始めている。
俺も王としての正装に着替え、広場をゆっくりと歩く。すれ違う国民たちは皆、笑顔で挨拶してくれたり、感謝の言葉をかけてくれたりする。
「ロイン様、この平和な日を迎えられたのも、あなた様のおかげですじゃ」
腰の曲がったおばあさんが、涙を浮かべて手を合わせてくる。
「いや、皆さんの頑張りがあってこそですよ。今日は存分に楽しんでください」
こういうふれあいは、王として何より嬉しい瞬間だ。
アレスターが少し離れたところから、誇らしげに、そしてやけに鋭い目で俺を警護している。
「ロイン王、何卒ご油断なく。私が必ずやお守りいたします!」
「アレスター、今日は無礼講だ。お前も楽しめ。……だが、カインたちをちょっと見ててくれると助かる」
俺が悪戯っぽく笑いかけると、アレスターは「はっ! 王子様、王女様方のお傍に!」と、まるで獲物を見つけた猟犬のように目を輝かせ、子供たちの元へ飛んで行った。あいつもすっかり良い師匠兼お守り役だな。
やがて町の長老に促され、俺はやぐらの上へ。見渡す限りの、笑顔、笑顔、笑顔。胸が熱くなる。
「アルトヴェール国民の諸君! 建国記念祭、誠におめでとう! この国の繁栄は、ここにいる一人ひとりの努力と笑顔の賜物だ。この平和を、この笑顔を、俺は何としても守り抜く。これからも、皆が安心して暮らせる国を、共に築いていこうではないか! 今宵は存分に楽しんでくれ! 乾杯!」
「「「ロイン国王、万歳!! アルトヴェール万歳!!」」」
地鳴りのような歓声と拍手が、夕暮れの空に響き渡った。
スピーチを終え、妻たちと合流すると、ロザーナとキャロラインが駆け寄ってきて、少し不格好だが一生懸命作ったんだろう手作りのメダルを俺の首にかけてくれた。
「お父様、いつもありがとう! 大好き!」
「……ああ、ありがとう。これが一番の宝物だ」
思わず目頭が熱くなった。こんな幸せがあっていいんだろうか。
その時、広場の隅で、小さな女の子が一人でしくしく泣いているのをカインが見つけた。母親とはぐれちまったらしい。
「……だいじょぶ? なまえは?」
カインがおずおずと声をかける。
「……えぐっ……ヒナ」
カインは、祭りの最初で手に入れた「イノシシのレアドロップの宝石」をポケットから取り出し、ヒナちゃんと名乗った少女に差し出した。
「これ、あげる。きらきら」
宝石を受け取ったヒナちゃんが、不思議と泣き止み、小さな笑顔を見せた。その瞬間、宝石がふわりと淡く光り輝き、まるでそれに導かれるように「ヒナー!」と叫びながら彼女の母親が人混みをかき分けてやってきた。
(うちの息子、やっぱりただ者じゃないな……)
カインの純粋な優しさと、俺譲りの(?)幸運が起こした小さな奇跡を、俺とカナンは少し離れたところから温かい目で見守っていた。
夜も更け、祭りのボルテージが最高潮に達した頃、俺たちはアルトヴェール城の一番見晴らしの良いバルコニーに集まっていた。
やがて、夜空に一声、心地よい轟音が響き渡る。それを合図に、次から次へと壮大な花火が打ち上げられ始めた。ネファレムが古代魔法を駆使し、ドロシーが幽霊だった頃の不思議な力をちょっぴり貸し、ガントレット兄弟が特別な鉱石を混ぜ込んで作り上げた、まさに芸術品のような花火だ。空には巨大なスライムがニコニコと笑い、アルトヴェールの紋章が七色に輝き、伝説の龍が夜空を雄大に舞い踊る。
「わぁぁぁ……!! お星さまがいっぱい……!」
キャロラインが歓声を上げる。
「きれい…!」
カインも目を潤ませて、小さな手を夜空に伸ばしている。
「パパ、ありがとう!」
ロザーナが俺の足元にぎゅっと抱きついてきた。
俺は子供たちを腕に抱き、7人の美しい妻たちに囲まれ、ただ静かにその光景を胸に刻みつけていた。
サリナが俺の肩にそっと頭を乗せる。
「本当に……夢のようです」
「うん。こんな日が来るなんてね」
クラリスが隣で幸せそうに微笑む。
「へっ、たまにはこういうのも悪くねぇな……」
カナンも素直な笑顔だ。
妻たちは皆、それぞれの想いを胸に、この瞬間の幸福を噛みしめているようだった。
(攻撃力ゼロで、スライム一匹倒せなかった俺が、こんなにも多くの笑顔に囲まれている。……守りたいものが増えるたびに、俺は強くなれた気がする。どんな伝説級のアイテムよりも、どんな莫大な富よりも、この瞬間、この笑顔こそが、俺が人生をかけて手に入れた、何物にも代えがたい『確定レアドロップ』だ。そして、この物語はまだ終わらない。この愛する家族と共に、輝く未来へと、続いていくんだ――)
花火が一段と大きく夜空に咲き誇り、アルトヴェール王国全体を祝福の光で永遠に照らし続けるかのように、いつまでも、いつまでも輝き続けていた。
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