第177話 意外な展開
――ひゅん。
――ストン。
俺たちは塔の最上階に転移してきた。
そこは大きな広間になっていて、なにやら魔力を制御するような装置が置かれている。
というか……これは……結界……!?
なにかの術式が組まれていて、効果はわからないが魔法陣になっている。
「わ、罠か……!?」
一瞬、俺は身構える――しかし、なにも起こらない。
どうやら危険な術式というわけではなさそうだ。
「誰も……いないみたいだな」
「そうみたいね……」
あたりを見渡すが、無人のようだ。
部屋は薄暗く、視界が悪い。
「敵がいなくてよかった、ひとまずはここで一息つけそうだな」
「うん、ちょっといきなりでびっくりしたしね」
クラリスがほっとして大きな盾を床に置いた。
その瞬間。
――パァ……!
まばゆい光とともに、何者かがこの部屋に転移してきたのだ。
「…………!? だ、誰だ……!?」
まさか魔界にも俺と同じ転移を使える魔族がいたのか!?
塔の中まで追ってきたとでもいうのだろうか。
だが、どうやって俺たちが転移した先を知ったんだ……!?
――シュウウウウ。
光とともに転移してきたのは、一人のしょぼくれた、初老の男であった。
魔力の感じからして魔族で間違いなさそうだが、見た目はほぼ人間のそれだ。
ただ皮膚が緑色で、ひげも異常に長い。
「な、何者だ……!?」
俺は警戒して剣をそいつに向ける。
だがやつは敵意を一切感じさせずに、こちらへ手をあげて近づいてくる。
「ま、待て……敵ではない」
「は、はぁ……? 敵じゃない……? そんなの信じられるかよ」
なんといっても、ここは敵の本拠地である魔界だ。
そんなところで出会ったのなら、それはすべて敵に決まっているじゃないか。
だが、老人は意外なことを口にした。
「私に戦う意思はない。ただ話を聞いてほしい……それだけだ」
「ど、どういうことなんだ……?」
「あまり時間はない。とりあえずきいてくれ」
「ちょ、ちょっと待て……その前に、あんた何者だ……?」
いきなり現れて、話をきけと言われても意味が分からなすぎる。
警戒するなというほうが無理な話だ。
「私が誰かはどうでもいい。それよりも、君たちにやってほしいことがあるんだ」
「おいおい……それは無理な話だ。自分が誰かは話せない、それなのに話をきいてくれなんて、虫がよすぎるぜ」
いくらなんでも怪しすぎる……。
「仕方がない……だが、私が誰かを知れば、君は余計に警戒するだろうが……」
「いいから、話してくれ。そうじゃないと、こっちもあんたの話をきけない」
「よかろう……。私は――」
そして老人は、とんでもないことを口にした。
あろうことか、彼は自分自身をこう名乗ったのだ――。
「――私は、四天王のひとり。アイヴェツリーク」
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