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第158話 天に叫べ


「くそ、離せ……!」


 とりあえず、足をつかまれている腕を、斬って落とす。

 それから、俺の周りにいる兵士たちをズババっと退けた。

 しかし……。


 ――ズズズ……。


「おえ……マジかよ……」


 なんと斬られたはずの兵士たちの、身体が一瞬にして再生したではないか。

 そしてやつらは俺を取り囲み、攻撃してくる。


「くそ……! これじゃあ斬っても斬ってもきりがない」


 今のところは俺の周辺にいる、目に見える範囲の敵しかわかっていないが……もしかして、これ5万の軍勢がすべてゾンビになってるんじゃないか……!?

 もし、そうだとしたら……。


「ちょっとやべえな……」


 俺は今、5万のゾンビ軍団に囲まれてしまっているということになる。

 相手は倒しても倒しても、起き上がってくるのだ。

 しかも急いでこいつらをなんとかしないと、周りの街にも被害がでるかもしれない。

 俺の周りのやつらは、一直線に俺に向かってくる。

 だが、5万もいれば、周囲に拡散していくことも考えられる。

 そうなれば、止めるのが大変だ。


「これが作戦だとしたら……敵は悪魔のような考えだな……」


 まさか自国の兵をゾンビ化させて、俺を取り囲む作戦だなんて。

 そんな悪魔的思考、とても人間のする発想とは思えない。

 命を冒涜するような、そんな畜生野郎、絶対に許せないな。

 まあだが、そのくらいしないと、俺を倒せないという判断は、正しいといえるかな。


「だが、このくらいで俺をどうにかできると思ったら大間違いだ……!」


 前にもモンスターの大群を相手にしたことがあったっけ。

 だが今の俺は、あのときよりもさらに強い!


「うおおおおおおおおお! 火炎龍剣(ドラグファイア)(エクス)――!!!!」


 ――グオオオオオオオ……!!!!


 剣先から放たれた炎のドラゴンが、目の前のゾンビ兵たちを喰らいつくす。

 死体ごと焼いてしまえば、さすがに復活はしないだろう。


「ふぅ……とりあえず、視界は良好……!」


 さっきまで囲まれていたが、周りにいた5000体ほどのゾンビはこれで塵になっただろう。

 少なくとも、すぐには復活しそうな気配はない。

 だが……。


「おいおいマジか……」


 視界が広がって、奥の方にいたゾンビ兵が見えるようになったせいで、新たな脅威に気が付いた。

 なんと、いく人かのゾンビ兵たちが、とんでもないものを持っていたのだ。

 そう、さきほど俺によって兵士たちからドロップした、レアドロップアイテムだ。

 ゾンビ兵たちは地面に転がっていた沢山のレアドロップアイテムを、自ら装備していたのだ。

 そこには神話級の武器や、防具が含まれていた。

 バフアイテムなんかで味方を強化しようとしているゾンビまでいる。

 ゾンビのわりに、かなり知能も高いようだ。


「くそ……これかなりのピンチだな……」


 だが、そこで俺はもう一つ、あることに気づいた。

 一人のゾンビ兵が、涙を流していたのだ。

 死体の状態がよかったのだろうか、それともまだ息があったのか。

 彼はゾンビ化したまま、意識をわずかに取り戻しつつあった。

 そして、小さな声で振り絞るように「痛い……痛い……殺して……」とつぶやいている。

 そう、彼らは決して、自らゾンビ化したいなどとは、微塵も思っていないのだ。

 上から命令されるままに進軍させられ、ゴミのように命を投げ捨てさせられ、挙句にゾンビとして死後もむりやり生かされ続ける。

 それがどんな苦痛か、俺には想像もつかない。

 だが、これを仕組んだやつだけは絶対に許せそうもなかった。


「くそが……! この下衆野郎……! どこかで見てるんだろう……! 待っていろ、今すぐに俺があの世へ送ってやるからな……!!!!」


 俺は天に向かって、そう叫んだ。





【三人称視点】



 ロインの叫びを水晶越しにきき、ジェスタークはにやりと笑った。

 そして、不敵な笑みとともにこう独り言つ。


「おお……怖い怖い……」


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