第155話 単騎特攻
「よお、他人様の国にそんな大荷物でなんの用だ?」
転移するやいなや、俺は目の前の兵士に話しかける。
兵士たちは突然現れた俺が何者かもわからぬまま、ただただ面食らっているようだ。
だが、こいつらは無断で俺の国に戦争を仕掛けてきた、明確なる敵だ。
しかもすでにいくつかの民家が襲撃を受けているという。
俺がこいつらに情けをかける理由など、ひとつもない。
愛する国民を、家族を守るためなら、俺はなんだってする。
それがたとえ魔界の魔族でも、他国の侵略でもだ。
目の前の兵士は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で突っ立っていた。
「は…………?」
兵士たちは俺をその辺の冒険者かなにかだと思っているのだろうか。
それとも、そもそも状況を飲み込めていないようすだ。
剣を構えたりするでもなく、ただ俺を見つめている。
そこを俺は、すかさず攻撃する。
「爆ぜろ――ッ! 雷鳴獄礼斬――!!!!」
俺が唱えると、天から雷鳴が降り注いだ。
これもスキルメイジから得たスキルのひとつだ。
――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
雷鳴は一瞬にして兵士たちの軍勢を割っていった。
一瞬にして、全軍団のほぼ五分の一である、一万の軍勢が戦闘能力を失っただろう。
人間に向けて力を本気でふるうのは、これが初めてだが……。
「これは……思ったよりも手加減が必要かもな……」
◇
【サイド:ユーラゴビス軍】
※三人称視点
ヨルガストン首都に向けて進軍を続けていたユーラゴビス軍だったが、突如としてその五分の一である1万人が消失した。
進軍部隊の最後尾である補給部隊。
そのうちから一万人が、まるまる消し飛んだのだ。
一瞬、とてつもない大きな音がしたかと思うと、次の瞬間には後方の味方が消えていた。
「な、なんだ今の音は……!?」
軍の先頭を率いていた軍団長のエルビスは、大声でどなった。
すぐさま伝令係が跪いて、
「確認してまいります……!」
と、後方への情報伝達に向かった。
時を同じくして、後方の部隊からも別の連絡係が馬を走らせていた。
情報は伝達係から別の伝達係へと伝わり、あっという間に本丸にまで轟いた。
「エルビス隊長! 報告します!」
「なんだ……! 状況はどうなっている……!」
「それが……後方部隊1万人が……しょ、消滅しました……!」
兵士は、なんとも言えない表情で、苦しそうに喉をすぼめてそう、なんとか言葉を振り絞った。
エルビスは一瞬、自分がなにを言われているのか理解できないでいた。
まさか一万人もの人間が、一瞬で消失などするわけもないのだ。
それこそ、神か悪魔の仕業でもない限り……。