表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

138/195

第138話 新しい鍵


「だから私は一緒に行けない……」


 ネファレムは俺にそう言った。

 どういうことだ……?


「つまり……お前が魔界に続く鍵だということは……」

「そうだ。私自身をいけにえに捧げることで、あちらの世界に行くことができる」


 頭を強烈な鈍器で殴られたような気分だった。

 まさか……そんな馬鹿なことがあるのか……?

 いや、あってたまるか!


「そ、そんなのおかしいだろ……! 普通の人間をいけにえに魔界に行くだなんて! だいいち、なんでお前がそんなことしなくちゃならない!」


 ネファレムは正直、このダンジョンに来てから厄介な目にもあわされた。

 だけど、彼女の見た目はただの普通のか弱い少女だ。

 そんな彼女が、いったいどうして……!


「普通の人間……か。いったいどうやって普通の人間が500年も生きられると思う?」

「…………っ!?」


 そうだ。ネファレムはこのレジェンダリーダンジョンで500年ものあいだ次の勇者を待っていた。

 だとすれば、普通の人間なんかであるはずはない。

 そんなことは、最初からわかっていたことじゃないか。

 別にダンジョンの運営を彼女に任せる必要は、はなからどこにもない。

 そんなことは、重要じゃない。


 俺は最初からこの違和感に気づいていたはずだ。

 気づいていて、あえて目をそらした。


「お前も……先代勇者が残した遺物のうちのひとつってわけか……」

「ああ、そうだ」


 ネファレムはどこまでも無機質な声色で言った。

 まるで、感情を押し殺したように。


「そんな馬鹿なことってあるかよ……!」

「私は魔族と人間のハーフなんだ。だから、その資格がある。魔界への扉を、開く鍵になれる。そのための祭壇も、このレジェンダリーダンジョンの最奥にそなえられている」


 ネファレムは当然のことのようにそう言う。

 だって、彼女はそのために500年ものあいだ一人で待っていたのだから。


「お前は……それでいいのかよ……!」

「構わない。私は最初から、そのために存在する」


「どういうことだよ……!」

「魔族と人間のハーフである私は、生まれてすぐに殺されるはずだった。それを救ってくれたのが、先代勇者なんだ」


 ネファレムは、そのことを恩義に感じているのだろうか……?

 だとしたら残酷な話だ。

 ネファレムは、先代勇者のことを仲間だと言った。

 だが、勇者からすればネファレムはどういった存在だったのか……?

 なぜ、彼がネファレムを救い、拾ったのか。

 それは……このためだったんじゃないのか……?


「…………っざけんなよ……!」

「は…………?」


 俺は、はらわたが煮えくり返るようだった。

 拳を握りしめて、怒りを抑える。


「ふざけんなって言ってんだ! なにが勇者だよ! お前を500年も放置して、そのうえ待った挙句にいけにえのために死ねだと……!? そんなことをするやつが、どこが勇者なんだよ!」

「仕方のないことだ……。私は納得している。それに、そうしないと世界が危険だ」


「うるせえ! 俺は納得しない! こんな理不尽ゆるされるか! クソ!」


 やっぱり勇者はクソ野郎だと俺の中で結論付けた。

 ネファレムの気持ちを思うと、どうにも怒りが収まらない。

 彼女はいったいどんな気持ちで500年も待ったのだろうか。


 そりゃあ、俺にダンジョンを攻略(・・・・・・・・)されたくない(・・・・・・)わけだ。


 だって、ダンジョンの攻略イコール、死を意味するのだから。

 そう、コイツは死にたくなんかないのだ。

 本心では。

 それなのに、それを押し殺して世界のために死ぬと言っている。

 それがどれだけの覚悟か、俺には計り知れない。


「んでだよ……! なんでだよ!」

「なにがだ……?」


「なんで死にたくないって言わないんだよ!」

「私にそれを言う権利はない……。私は、魔族だから……」


「そんなの関係あるかよ……! くそ……!」


 ネファレムは、あの頃の俺と同じだ。

 本当はスライムすら倒せないことが悔しかった。

 だけど俺はグフトックに対してこちらから対して反抗もせずに、言いなりだった。

 追放されて、置き去りにされてようやく、俺は自分を出せたんだ。

 それまで、命がけでスライムに挑むことすらしなかった。

 ネファレムは、委縮して怯え……あの頃の俺そっくりだ。


「よし……! クラリス、カナン。俺は決めたぞ……!」

「うん、わかってるよ!」「ああもちろんだ!」


 俺たちは顔を見合わせた。

 どうやら考えは同じようだ。


「お、お前たち……なにを……?」


 ネファレムは困惑し、なにがなんだかわからないと驚いていた。


「ネファレム! お前を絶対にいけにえなんかにさせはしない!」

「はぁ……!? なにを言ってるんだ! そんなの無理だ……! だって、先代勇者ですらそんなことは無理だった……! 先代勇者がせっかく私を鍵として残したんだぞ……!? もう魔族と人間のハーフなんて、この時代には私しかいない……!」


「うるせえ! そんなの知ったことか……!」

「はぁ……!? お前たち……正気か……!? 世界の命運がかかってるんだぞ!」


「世界? 目の前の仲間一人救えないで、なにが世界だよ!」

「な、なかま……!?」


 俺は思い切り、目の前のいけにえの祭壇に向けて攻撃を放った。


「うおおおおおおおおおお!!!!」

「おいバカやめろ!」


 ――ズドーン!!!!


 俺の攻撃によって、いけにえの祭壇は粉々に崩れ去った。


「あぁ……祭壇がぁ……ど、どうするんだ……」


 ネファレムはその場に力なく崩れ落ちる。


「大丈夫だ。俺がなんとかする……!」

「な、なんとかって……そんなの無理に決まってる! だって先代の勇者ですら他に方法は見つけられなかったんだぞ……!」


「バーカ。俺は先代の勇者にはないものを持っている」

「ま、まさか……」


「そうだ。俺の確定レアドロップ――これに不可能はない!」


 俺は自信満々にネファレムの頭に手を置いて、宣言した。


「ふ、ふぇええ……ロイン……しゅき……」

「は……?」


 ネファレムの目が一瞬ハートに見えたのは俺の気のせいだろうか。

 まあとにかく、そういうわけで、魔界へは別の方法でたどり着くことを決心した。

 もともと、ネファレムに頼らなくても自分でなんとかするつもりだったくらいだしな!

 この確定レアドロップの能力をつかえば、きっとそのくらいの不可能、可能にできるはずだ。

 それは今までやってきたように。

 なにかしら、便利なアイテムがあるに違いない!

 俺はそう確信していた。


「じゃあ、帰るぞネファレム!」

「え……? ど、どこに……?」


「俺たちの家。アルトヴェールにだよ……!」


 俺たち三人は、新しい仲間ネファレムに手を差し伸べた。



「ロイン……クラリス、カナン……馬鹿な奴らだ……。でも……ぐすん……本当に、ありがとう!!!!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

《▼カクヨムで新連載はじめました▼》
  【続編】『アイテム至上主義!』~近未来のダンジョン都市NEOトーキョーで俺だけ【確定レアドロップ】な探索者生活~
ぜひ応援よろしくお願いしますね!確定レアドロップの精神的続編です!
  ▼▼▼ 大好評発売中 ▼▼▼
    ★画像タップで購入ページへ飛びます★
html>
《▼カクヨム版はこちらです▼》
スライムすら倒せない無能と罵られた俺のスキルが《確定レアドロップ》だった件。ようやく倒せた初めての一匹がきっかけで、ハクスラの連鎖が止まらない!世界最速で世界最強の勇者を追い抜きます
コメント欄解放中!先行公開!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ