第11話 崩壊の兆し【side:グフトック】
「なんだッ……! いったいなんなんだあのヤロウ!!!!」
俺はロインが去った後の机を殴りつける。
虫の居所がおさまらねえ。
なんであのスライムすら倒せなかったクソ雑魚ロインが……あんな武器を手にしている……!?
「ぐ、グフトックさま……! 落ち着いてください!」
プラムが俺をなだめようと肩に手を置くが、俺はそれを乱暴に払いのける。
「うるせえ! これが落ち着いていられるか!」
俺は今、金がなくて困窮しているというのに……。
ロインのやつめ、ずいぶんと羽振りがよさそうだった。
しかも、俺の武器は折られてしまった。
「おい! あいつにも負けないくらい稼ぐぞ! 俺たちもゴーレムを倒そう」
「え……!? 私たちでゴーレムをですか……?」
「そうだが? 問題があるか……?」
「で、でも……お金がないのでやめといた方が……」
などとナターリアは気の弱いことを言う。
まったく、これだからこいつはダメなんだ。
「馬鹿を言え! 金がねえから、やるんだろうが! ゴーレムを倒せばそれなりの金になる」
「で、でも……」
「は? 俺の言うことが聞けねえのか?」
「ご、ごめんなさい……」
俺は反対するパーティーメンバーを黙らせ、クエストをカウンターに持っていく。
パーティーメンバーをまとめるのも、リーダーである俺の仕事だからな。
しかも俺が選んだのは、ロインのようなやわな奴でも倒せるようなゴーレムじゃない。
ゴーレムの上位種、エルダーゴーレムの討伐クエストだ。
「さあて、お仕置きの時間だ。俺の偉大さを知らしめてやるぜ」
俺たちはさっそく、ダンジョンへと向かった。
このクエストをクリアすれば、金は手に入るし、ロインにぎゃふんと言わせることもできる。
まさに一石二鳥、神のようなアイデアだ!
◇
それなのに――。
どうして……!
「……っく! なんでこんなに苦戦しなきゃならねえ!」
俺たちはエルダーゴーレムにたどり着くことすら難しかった。
ダンジョンを進んでいくのだが、一向に敵が減らない。
「おいカルティナ! お前さっきから攻撃してねえだろう!? どうなってやがる!」
俺は【傭兵】職のカルティナに怒りの檄を飛ばす。
どうもおかしいと思ったら、さっきからカルティナは自分の目の前の敵にしか攻撃していない。
つまり明らかに手を抜いていやがる。
最低限の仕事しかしないつもりでいるらしい。
「どうなっているはこっちの台詞だ。私はあくまで【傭兵】だ。金で雇われているからには、きっちりと支払いをしてもらわねば働く義理はない」
「なんだと!? こっちは今、金がねえんだ! ごちゃごちゃ言ってないで自分の分は働いて稼げ!」
まったく、お高く留まったクソ女だぜ。
金がないからゴーレムを倒しに来ているというのに、金がないから攻撃しないとはどういう理屈だ?
これだから頭の悪い脳筋は嫌になる……。
でもまあ、見た目はいいから許してやってもいいな。
「それよりもだ……! おいプラム! お前もお前だ! いったい何をやってるんだ!」
「ひゃ、ひゃい! すみませんグフトックさま!」
さっきからどうも、プラムも仕事をしていない気がする。
たしかに【アイテム師】のプラムの仕事はあまり目立たないが……。
「その……私は【アイテム師】ですので……。アイテムがないと戦えないんです……!」
「それは知っている……! 戦闘用の消費アイテムなら十分に買い与えているだろう、バカが!」
「それが……さっきの戦闘で切れてしまって……」
「なにぃ!? 金がないと言っているだろう! このバカ女!」
まったく、どいつもこいつも使えないパーティーだな。
俺は頭が痛くなってきたぜ。
俺だって剣が折れてしまったせいで、少し弱めの武器を使わざるを得ないのだ。
ただでさえ効率が落ちているのに、味方がこれでは日が暮れてしまう。
「最後はナターリア! お前もだ! お前のモンスターも、さっきからまったく仕事をしていないように見えるが……? そいつらは案山子なのか? あん? なんとか言ってみろ」
「す、すみませんグフトックさま……! ですが……!」
ナターリアは【テイマー】の女だ。
だから何匹かの狼モンスターを引き連れている。
そのせいでいつもうるさくてかなわん。
だが可愛いし従順だから、俺の手元に置いてやっている。
「それが……! さっきからモンスターが言うことを聞いてくれないのです!」
「はぁ? 無能かよお前は。テイマーがモンスターに言うこと聞かせられねえでどうすんだ!」
「す、すみません! それが……餌が足りてないようでお腹を空かせているんで……」
「だ! か! ら! 金がねえっていってるだろ! イヌっころなんかに食わせる餌なんかねえんだよ! てめえのクソでも食わせてろクソボケ!」
まったく、金食い虫とはこのことだ。
どうしてうちのパーティーメンバーはこうも金金いうのかねぇ。
今まではそれでも十分な稼ぎがあったんだ。
それがどうして急にこんなことになったんだろうかな……。
そういえばロインがいなくなってから、とことんツキが落ちた気がするな。
いや……まさかな……。
あんなヤツ、いてもいなくてもおんなじ、どうでもいい存在なんだ。
意識するだけ無駄さ。
「ああクソ! ロインの顔がちらつく! あいつのことを考えたら、余計に腹が立ってきたぜ!」
俺はイラついて、ダンジョンの壁に蹴りを入れる。
すると……。
――ゴゴゴゴゴゴ。
「ん……?」
なんだか今の壁、俺が蹴ったら、動いた気がする。
どういうことだろうか……?
そう思ってボーっとしていると、傭兵のカルティナが俺の肩を叩いた。
「おいグフトックしっかりしろ! 文句ばかり言うな。そういうキサマが一番仕事してないだろ!」
などと言ってきやがる。
カルティナのやつ……調子に乗りやがって。
「うるせえ! 俺は本命の武器が折れてつかえねえんだよ! だから本調子じゃないだけだ!」
「ふん……どうだかな。一流の戦士は得物を選ばない」
クソ……!
火に油だぜ。
俺はもう限界を迎えていた。
我慢ならねえ!
「うあああああああああ!
クソ
クソ
クソ
クソ
クソ!!!!!!!!!!!!」
俺は我を忘れて、ダンジョンの壁を殴りまくった。
すると、さっきよりも大きく、壁が動いた。
そして壁が、俺に向かって跳ね返って来たではないか!
俺は壁に殴られるようにして吹っ飛ばされる。
「うわああああ!」
「グフトックさま……!?」
クソ……。
ダンジョンの壁までもが俺にあだなすというのか……!?
「このクソ壁がああ!」
俺はもう一度立ち上がり、壁に向かって殴ろうとする。
すると、カルティナがそれを羽交い絞めにして制止した。
「おい、なんだよ!」
「よくみろ……! これは壁じゃない……!」
「あん……?」
カルティナに言われ、俺はまわりをよく見てみる。
上を見上げると、ようやく状況がわかってきた。
俺が壁だと思い込んでいたそれは、壁なんかじゃなかった。
「ご、ゴーレム……?」
そう、それはあまりにも巨大で、気づかなかっただけだった。
俺たちのクエスト目標であるエルダーゴーレムが、そこにいた。





