第102話 ダメージ
俺たちはさっき手に入れたサイハテの砂時計を使う。
これを使っておけば、ダンジョンにいる間の時間経過を止めておけるようだ。
にわかには信じがたいはなしだが、これで時間を気にせずにダンジョンに潜り続けられる。
「さて……次はどんなモンスターが出てくるのかな……」
次のエリアに進むと、今度はゴブリンタイプのモンスターが出てきた。
しかしもちろん普通のゴブリンのような弱いモンスターではないだろう。
明らかに普通のゴブリンよりも大きく、知能も高そうだ。
身長は2メートルくらいあって、筋肉の量もオーク並み。
名づけるとしたらゴブリンエンペラーというところか。
ゴブリンエリートやゴブリンキングというだけでは足りないくらいだ。
「よし……構えろ……！」
「こっちよ……！ 挑発！」
まずはいつものようにクラリスが挑発で引き付ける。
ゴブリンはクラリスに向かって、巨大な棍棒のような武器を振り下ろした。
「巨大盾――！！」
クラリスは盾を巨大化させることで、なんとか攻撃を受けきる。
「よし、今のうちに……！」
すかさずカナンがゴブリンに攻撃をする。
しかし、ゴブリンはそれをかわすことなく、左手で受け止めた。
「なに……！？」
ゴブリンの腕には、小さな盾のようなものが付いていて、その部分でカナンの短剣を弾いたのだ。
どうやらかなりの知能があるようだ。
「グオオオオオオオオオオオオ！！！！」
攻撃を受けたことで興奮したゴブリンは、再び武器を振り上げる。
そして、クラリスの盾――ではなく、クラリスを横から攻撃しようとしてきた……！
「なに…………！？ 闇の右手――！！！！」
俺はすかさず、魔法を唱え、闇の右手をクラリスのもとに召喚する。
そして巨大な右手で、ゴブリンの攻撃を受け止めた。
――ドン！
「ロイン、ありがとう……今のは危なかったわ……！」
「ああ……どういうことだ……挑発を使っているのに、あいつはクラリスの盾を無視して攻撃を……」
明らかに、こちらの弱点をわかっているような動きだ。
こいつも一筋縄ではいかない相手だということか……。
「いくぞ！ これで仕留める！ 火炎龍剣――！！！！」
俺は剣に炎をまとわせて、ゴブリンに斬りかかる。
これならば、剣を弾かれても、炎のダメージが通る。
しかし、今度はゴブリンは俺の攻撃を無視するように、思い切りバックステップで距離をとった。
「はやい……！？」
こちらの攻撃に、冷静に対処している……！？
驚く俺の横を、猛スピードでカナンが横切る。
「ロイン、追い打ちは私に任せて……！ 電光石火！」
バックステップで逃げたゴブリンを、着地狩りの要領でカナンが追い詰める。
しかし、ゴブリンはそれにも気づき、カナンの短剣に追いついた。
――キン！
「なに……！？ 完全にとらえたと思ったのに……！」
速さで優るカナンが攻撃しても、ガードされてしまう。
そして俺が攻撃しようとすると、すぐに距離をとってくる。
クラリスの盾も、無視するように横や後ろを狙ってくる。
ここまで知能の高いモンスターは初めてだ……。
「だったら……逃げられないようにするまでさ……！ 極小黒球！！！！」
俺は手のひらから極少サイズの黒球を放つ。
そして吸引する能力で、ゴブリンをとらえる。
「ゴブ……！？」
「このスキルからは、そう簡単には逃げられないぞ……！」
後ろから、闇の右手でゴブリンの体を押さえつける。
これだけすれば、もう逃げられない。
俺は両手が魔法のコントロールでどっちもふさがっているから、とどめは任せるしかないけど。
「よし、いまだ……！」
「盾火砲――！！！！」
クラリスの盾から放たれた光線が、ゴブリンを貫く――！
盾を巨大化しているから、その威力も甚大だ。
「グオオオオオオオオオオオオ！！！！」
「よし……！ なんとか勝てそうだ……！」
しかし、驚いたことに、ゴブリンはそれだけでは死ななかった。
「しぶといやつだ……！」
「ゴブゴブ……！」
そしてまた驚いたことに、ゴブリンは体を引きずりながら、ダンジョンを引き返していく。
普通のモンスターであれば、死ぬまでこちらへ向かってくるものだ。
しかし、このゴブリンはまるで人間みたいな動きをする。
「でも……逃がすか……！ 空間転移の剣――！！！！」
俺はゴブリンの目の前に、剣を出現させ、とどめをさす。
今度は瀕死だったからか、簡単に攻撃を当てることに成功。
「ふぅ……手ごわかったな……」
「こんなに賢いモンスターは初めてだ……」
さっきのイタチといい、まだまだ驚きは尽きそうにない。
「よし、ドロップアイテムは……っと」
《智略の指輪》
説明：装備したものには、相手へのダメージが可視化される。
「こ、これは……どういうことだ……！？」
ダメージが可視化されるってことは……相手の弱点とかが丸見えになるってことかな？
普通は相手に与えた手ごたえとかで、ダメージを図るものだけど……それが可視化されるだって？
とりあえず、これは俺がつけてみることにした。
「よし……斬空剣――！！！！」
試しにそこらへんに転がっている岩に向かって、攻撃をしてみる。
すると――。
【1600ダメージ！！！！】
「うわ……！？」
「どうしたのロイン……！？」
「それが……今岩に与えたダメージが、数値になって表れたんだ……」
ダメージの可視化とはこういうことか……。
それにしても、これさえあればかなり戦闘が楽になるぞ……。
「ねえロイン……私気づいたんだけど……。さっきのゴブリン、まるでそのダメージが見えているような動きだった……。こっちの弱点や自分の弱点を、把握していた感じ」
クラリスがそんなことを言ってきた。
俺とカナンは、顔を見合わせてしばし言葉を失った。
「「…………ま、まさか」」
もしかしてこのダンジョンのモンスターは、落とすアイテムと似た能力を持っていたりするのだろうか。
だとしたら、非常に厄介だ。
ただでさえ強いモンスターだというのに、モンスターごとになにか特殊な能力を持っているのだとしたら……。
「まあ、その分こっちも強化がはかどるということだ……！」
「そうね」
それに、まだ倒したモンスターは少ない。
これから先にどんなモンスターが現れるかもわからないのだ。
決めつけをしてしまうと、思わぬ罠にはまってしまうかもしれないしな。
「よし、ここから先は、さらに慎重にいこう！」
俺たちは第二階層への移動陣を見つけた。
