90 俺はお前でお前は俺で
呆気にとられる俺に、彼は再び問いかける。
「で、お前、こんなとこで何してんの?」
しかし、どう答えたらいいのか分からない。
ていうかさっき“俺”って言わなかった?
「・・・え~と、あなたは?」
「あん? 俺はお前でお前は俺だろ?」
「いや、だからどういうことですか?」
「あ~っと、そうだなぁ。俺はお前の前世(?)みたいなもんだ。ほら、輪廻転生ってやつ?」
ほうほう。なるほど。彼は俺の前世らしい・・・・・え?
いや、意味分かんないです!!
「あん? 信じられないって? しょうがねぇなぁ・・・・じゃあ8歳のころの恥ずかしい~」
「あっ! もういいです! はい! 分かりました!!」
「本当か? 9歳の誕生日の~」
「あああああ! だからもういいですって!! 分かりましたから!!」
「そうか、分かってくれたのか」
だって自分から自分の恥ずかしい体験を聞かされるとかただの拷問だろう!!
ヤバいよこの人。俺の11年間、丸っと知ってるよ!!
これ以上、変な方向へ会話が流れるのは避けたい。
「それで、ここはどこなんですか?」
「ここ? あ~ここは、お前の夢の中・・とはちょっと違うか・・・ん~なんていうか、精神世界(?)みたいな感じだな。たぶん」
「俺、なんでこんなところにいるんですかね?」
「そんなの俺も知らねぇよ。おおかた死にかけてるとかじゃね?」
「いや、死にかけてはいないと思うんですけど・・・熱はあったみたいですけどね・・・」
「じゃあ高熱で頭ん中がイッちまったのかもな! ハハハ!」
「あははは・・・・・それヤバくないですか?」
「・・・ヤバいな」
「ま、まあ、とりあえずこのままじゃあどうしようもないですし、ここでゆっくりしていってもいいですか? 最近忙しくて、ちょっと疲れちゃったみたいなので」
「ああいいぜ! 何なら王都で金を使い込んだ時の~」
「やめてください!!」
「ハハハハハ!」
何なんだこの人。隙あらば俺の恥ずかしい話をねじ込んで来ようとする。ホントとんでもない人だな。
そうして彼はひとしきり笑ったあと、急に真剣な表情になり、こう言ってきた。
「ところでお前、騎士になろうとしてるんだよな? それも英雄クラスの」
俺は力強く肯定する。
「そうです。なんたって俺の夢ですから!」
しかし、彼はさらっとした口調で続けるのだ。
「でもお前、ぶっちゃけ才能なくないか?」
「・・・」
「弱いし」
「・・・いやいや、これでも結構強い方だと思うんですけど!」
俺は若干涙目になりながら言い返すが、彼はコテンと首を傾げる。
「え? あれで?」
「いや、そりゃあ、あなたほど上手くは・・・でもそこそこ再現出来ていると思いますけど!」
「え? あれで?」
そんな、心底不思議そうな顔で言わないでください! 傷つきます!
なんて恐ろしい奴だ! 俺の精神を的確に削って来るとは。
俺は逆ギレ気味に、彼に掴みかかり、早口にまくしたてる。
「だ、だって夢の中で見たきりなんですから仕方ないじゃないですか!! 大体あなたのほうが異常なんですよ! なんなんですかあの剣捌き。本当に魔法もない世界の住人ですか? 俺は剣を振るだけで精一杯なのに、ナイフやこん棒、果てには糸まで武器にしてしまうし。体術だって柔も剛も極めた達人レベル。ホント意味わかりませんよ!!」
「お、おう・・・分かった。分かったから少し離れてくれ。すまんかった」
俺はそのまま、すまなそうな表情をした彼を睨みつけて言う。
「だったら俺に剣術を教えて下さい」
「え? え~と、それはまた今度・・・」
「またここへ来れるかなんて分からないじゃないですか! 今教えてください!!」
「いや、剣無いし・・・」
なるほど。剣があれば教えてくれるのか。だったら!
「ふぅ~」
俺は剣を強くイメージしてみる。
「!?」
すると目の前に剣が二本落ちてきた。ここが想像上の世界ならこれくらいできると思ったのだ。どんなもんだ!
「これでいいですか?」
「マジかよ・・・」
「い・い・で・す・か?」
「しょうがねぇなぁ」
彼は渋々ながらも、俺に剣術を教えてくれることになった。




