88 頼れなかった相棒
お読み頂きありがとうございます!
ブクマ、評価、感想は気が向いたときに。
ファイエット嬢との談笑を終えた俺たちは、再びキルトン兄妹と合流し、お茶菓子を楽しんだ。
サーヤが率先してお菓子を口に運び、貴族らしく(?)美しい詩的表現でこれでもかというくらい長々とお菓子を褒めたたえる姿は、少し意外だったな。
カフスに聞いたところ、実は大のお菓子好きらしいよ。最早お菓子評論家とか研究者の域だったね。あれは。
かく言う俺も、見た目に美しく、食べても美味しい宝石のようなお菓子に惹かれ、ついつい食べ過ぎてしまった。バレていませんように!
さすがに持って帰ろうなどとは思わなかったが、お菓子好きのティナだったらどんな反応をするのだろうと考えながら、それらをつまむのはちょっとだけ楽しかった。
知らず知らずのうちに顔が緩んでいたようで、クリスたちに
「何をニヤついているんだい?」
とか
「さすが師匠! 笑顔にもバリエーションを持たせるとは」
などと言われてしまったのは、正直少し恥ずかしかったかな・・・今度から気を付けよう。
そうして騒いでいるうちに、時間はあっという間に過ぎ去っていった。
――やがてお茶会は無事に終わりを迎える。
いや~何事もなく終えることができてほんと~に良かった!
だって、あのギラギラした女の子たち、あの手この手で婚約を取り付けようとするんだもの! 危うく婚約させられるところだったんだぞ!!
そう。さり気ない会話を装って、
「本日は良いお天気ですわね・・・ところでジェフリー様には、まだご婚約者がいらっしゃらないとか」
「ええ。まだ私には早いかなと思っておりまして」
「いえいえ。そんなことはございませんわ。私たちの年齢で婚約者がいる者などたくさんおりますし、貴族の婚約はそれほど厳粛ではございませんから、あまり構える必要もございませんわ」
「なるほど。そうなのですね」
「なので、モノはためし。一度私と婚約してみませんか? この紙にお名前を書いて頂くだけで婚約は完了。実にお手軽でしょう? 気に入らなければ婚約を破棄することも可能ですわ! さあ!!」
みたいな感じの、実に胡散臭い婚約話を聞かせてくるのである。
下手に頷こうものなら即婚約。恐ろしすぎる!
婚約破棄とか絶対そんな簡単な話じゃないだろ!!
というか、男性からの婚約破棄は、女性の名誉やらなにやらを引き合いに出されて、賠償問題になりかねない危険極まる行為だぞ!!
俺は言質を取られないように、それらの誘導を回避しつつ、
「可憐で聡明なあなたには、きっとすぐに素晴らしい婚約者が見つかります。大丈夫。焦らずじっくり見定めてください。そのような曇った瞳では、せっかくの可愛らしいお顔が勿体ない」
という断り文句と満面の作り笑顔でなんとか彼女たちを追い払った。
我ながら不思議なくらい上手く話せていたと思う。理由は分からないが、作り笑いをしているとスラスラと言葉が出てくるのだ。あの断り文句も、ふと思い浮かんだものだったから非常に助かった。
もしもあのまま延々と話を聞かされていたら、どこかで間違って頷いていたかもしれない。結局クリスは助けてくれなかったし・・・ホント何してやがった。
そんな文句をお茶会の帰りに言ってやったら、
「ボクの助けなんていらなそうだったからさ!」
などと、言い訳なのか褒め言葉なのか、よく分からない返事をしてくる始末。
まあいいや。どうせしばらくは参加しないだろうから・・・。




