85 キャパオーバー
はぁあああああああああ!?
おいおいおい!嘘だろ!?
俺は驚きのあまり、クリスの肩に掴みかかりそうになる。
「おまっ! それ本気か!? 盛大な嘘とかじゃ・・・」
クリスは首を横に振って続ける。
「これは高位の、そして両親世代の貴族なら知っている話なんだ。当時、すぐに緘口令が敷かれたらしいから、平民はもちろん、下位貴族や若い世代には知られていないみたいだけれど。ボクは偶然、跡取り教育の一環でね・・・」
え~と、父さんは平民出身の英雄で、母さんはこの国の王女様?
でもなんでそうまでして隠す?・・・・・ってそうか!
「この国では貴族と平民の婚姻は認められていない。普通なら父さんと母さんの結婚は認められないはずだった?」
「そう。これは国にとって大きな問題だったんだ。だからできるだけ隠す必要があった」
「でも、国王様は父さんに爵位を与えたんだよな? それで身分差問題を解決しようとしたんじゃないのか?」
「ううん。いくら爵位があっても身分差が大きすぎて、やっぱり認められないという結論になったらしい」
「じゃあ結局どうやって・・・まさか!」
「そう。二人は駆け落ちを決意した。遠く辺境の地でひっそりと暮らすことを望んだんだ。歴史上、王女様は流行り病で亡くなったということになっているけれど、実際には自ら身分を捨て去り、王宮を出ていったっていうことらしいよ」
「ってことは、俺の実家とかあの辺の土地って・・・」
「まあ、国王様にも情はあるだろうからね。娘夫婦への餞として、爵位と辺境の土地を与えて放逐するというかたちをとったんだと思うよ」
「・・・」
おい。こんな爆弾発言を聞かされて、俺はどうすればいい?
いや、どうもできないんだけれども。
なんなんだよそれ・・・・・カッコよすぎんだろ・・・。
俺がひそかに感動に打ち震えていると、クリスは思い出したように声を上げてこう続ける。
「あ! そういえば、これは貴族女性の間で囁かれている噂らしいんだけれど、カイル殿は王女様と結婚するために英雄にまでなったんじゃないかって言われているんだ。本当かどうかは疑わしいけれどね。そこまで強く求められるなんて羨ましいとか言う貴族女性は多いみたいだよ」
「そ、そうなんだ。へ~」
ヤバい! もうなんて言ったらいいのか分からない!
変な本とかになってないかな。心配だよ!
俺の心労をよそに、クリスはなおも続ける。
「あ! それから、貴族男性の間ではこんなことも言われているらしいよ。学生時代に王女様と交わした約束を果たすために、国まで救った漢の中の漢。最高の英雄って」
「・・・」
お願いだクリス。もう許してくれ。完全に許容値を超えている。あまりの衝撃に耐えきれず、思考が飛んでいきそうだ。
もはや俺は両親について考えるのをやめ、
「クリス。もう大丈夫。分かった」
クリスの停止ボタンを押してやる。
「そうかい? 噂話程度ならまだまだいっぱい・・・」
「いや、もういい。十分だ」
「・・・そっか」
両親の過去とか、もうどうでもいいや!
俺は今聞いた話を全力で放り投げることにした。
この辺の詳細は外伝でやれれば・・・。
(書けるかは不明ですけど)




