84 裏話
俺は高座から降りてきたクリスに早足で詰め寄る。
「クリス! あれはどういうことだ!!」
しかし、クリスは小首を傾げて、
「あれって?」
不思議そうに問い返してくる。
「あれだよ! 俺の紹介の!!」
俺の剣幕に驚いたクリスが、不安そうな、悲しそうな顔になった。
「え!? ボクたち親友だろ?・・・まさか嘘だったの?」
おっと、とんでもない方向に思考を飛ばしてしまったようだ。
「あ、いや、そっちじゃなくて。俺の父さんの話」
「え!? ジェフ君のカーティスって家名は、カイル殿が国王様から頂いたものじゃないの? まさか他にもカーティスって家名があったなんて知らなかったよ・・・ごめん」
一瞬戻りかけたクリスの表情だったが、またまたあらぬ方向へ飛んでいきそうになる。
「いや、そういうわけでもなくって。そのカーティス家で合っているんだけど・・・・ああもう!! なんでその話を知っているのかってことだよ!!」
俺は勘違いを正そうとするが、途中で面倒臭くなり、とりあえず聞きたいことだけを早口でまくし立てた。
「・・・え? その話って?」
「だから! カーティスって家名が、昔父さんが国王様に貰ったものだって話!」
「ん? ああ! もしかしてご両親から何も聞いていないのかい?」
俺の聞きたいことが、ようやく伝わったようだ。そして、どうやらクリスは何か知っているらしい。このまま吐かせよう。この機会を逃してはならない!
「そうなんだよ! 誰も教えてくれないんだ! クリスは何か知っているのか?」
クリスは少しだけ考える素振りをしながら話し始める。
「え~と、そうだね・・・まず、カーティスっていう家名が貴族の間でよく知られている理由なんだけど。これは単純に、国を救った英雄に国王様が直々に与えた家名だからっていうのが大きい。大抵の貴族なら知っている話さ」
なるほどなるほど。やっぱり国王様の影響か。ほとんどの貴族はカーティスという家名をバッチリ知っているようだ。
俺がうんうん頷いていると、クリスが途端に声を潜めて耳打ちしてくる。
「でも実は、この話にはちょっとした裏があるんだ。高位貴族のほんの一部しか知らない裏話がね」
おいおい本当かよ・・・もしかしてヤバい話か?
少しひるむ俺に、クリスはそのまま話を続ける。
「カイル殿、彼は平民出身だった。これはいいね?」
そうだな。父さんは平民から成り上がった英雄だ。これは間違いない。
「う、うん」
「じゃあ、ジェフ君の母君も平民出身だと思うかい?」
ん? 母さん? いや、そう言われると・・・ただの平民ではなさそうというか、明らかに良家の淑女っぽいというか。よくよく考えるてみると貴族の女性にしか見えないな。うん。
算術や文字の読み書きは徹底的に叩き込まれたし、礼儀作法や社交ダンスとかも教えてもらったもんね・・・。
「いや、確かに平民出身には見えないな。明らかに貴族の淑女って感じだった」
答える俺に、クリスはよりいっそう小さな声で言ってくる。
「そう。ジェフ君の母君は貴族出身。ううん、これはちょっと違うかな・・・・・正確に言うなら王族、この国の王女様だったらしい」
「・・・・・は?」




