82 頼れる親友
控室を出た俺とクリスは揃って会場までの廊下を歩いていた。
初めて着る豪華な衣装は少し歩きにくいが、自然と背筋が伸びるような感覚がある。
俺はクリスの隣をきちんと歩けているだろうか。胸を張って前を向き、クリスの友として恥じない歩き方をしたい。
そんなことを思いながら、ふと浮かんできた疑問を口にしてみる。
「そう言えばクリス。今更なんだが、主催者と一緒に会場入りするのって、ちょっとおかしくないか? 特に、俺みたいな得体の知れない奴が隣を歩いていたら、色々と不審に思われそうなんだが。」
歩きながら問う俺に、
「平気平気! どうせ子供のお茶会なんだし、そんなに堅苦しくないって! それに、特別な間柄の友人同士とかだと、繋がりを見せるための演出としてこういうことをやったりすることもあるんだ。誰にも文句は言わせないよ!!」
クリスは両の手で拳を作り、空気を殴りつけながら力強く答えた。
「まあ、それならいいけどさ・・・もの凄く注目されそうで気が引けるというか・・・」
「大丈夫! 今のジェフ君はどこからどう見ても高位貴族、いやどこかの王子様にしか見えないよ! 堂々としていれば問題ないさ!!」
なんだかよく分からないが、クリスがここまで言うならきっと大丈夫なのだろう。
変な奴に絡まれて、面倒ごとになんてならないよな?
ホントに頼むぞクリス! 信じてるからな!!
厚い信頼(?)を胸に、俺はそれ以上何も言わずに歩くことにした。クリスは鼻歌を奏でながら軽い足取りで隣を歩いている。
――そうして歩を進めた俺たちは、一つの扉の前にたどり着く。
そこに立っている執事と思しき一人の男性が、俺たちに向かって深々とお辞儀をして一言。
「お待ちしておりましたクリス様、ジェフリー様」
どうやらこの向こうがお茶会の会場らしい。
「ああ。それでは開けてくれ」
先ほどまでの緩んだ雰囲気はどこへやら、引き締まった表情のクリスが凛とした声で執事に指示を出した。
と思ったら、
「もうみんな揃っているみたいだね」
小声で俺に話しかけてくる。
「ああ」
簡潔すぎる応答が気になったのか、クリスが心配そうな声で聞いてくる。
「もしかして緊張しているのかい?」
しかし、
「緊張・・・・・しないな・・・」
初めて参加する社交場のはずなのに、なぜか全く緊張していない自分に驚く俺。
不思議なほどに気持ちは落ち着いていて、意識もしていないのに勝手に口角が吊り上がり、笑顔が出来上がる。完全な作り笑いだ。
なんだろう。気持ち悪くはないし、違和感もない。何度も繰り返したことのように自然な感覚を覚えた。
不思議な感覚を抱きつつ、俺は笑顔でクリスに呼びかける。
「問題ない。行くぞ!」
「う、うん」
クリスは一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに頷いて前を向く。
――厚い扉がゆっくりと開き、眩しい光と大きな拍手の音が飛び出してきた。
眼前に広がるのは、まさに異世界。今までに体験したことのない煌びやかな空気。
その中へ今、歩き出す。
傍らに立つ親友とともに。




