9 ギルバートおじさん②
裏庭に出た俺は、ギルバートおじさんと相対していた。どうやらギルバートおじさんと摸擬戦をやるらしい。
「ジェフ君、準備はいいかい?」
「はい!大丈夫です。ギルバートおじさん!」
「私も手加減しないから君も本気でかかってきなさい」
開始直後から凄まじい殺気をたたきつけてくるが、やはり恐怖はない。俺は落ち着いて木剣を構え、ギルバートおじさんを見据えた。
・・・しかし・・・打ち込もうにも隙が見当たらない。
先に動いたら切られてしまう。そんな感覚が俺を支配している。どうしたらいい・・・夢の中の俺はこんなときどうしていたっけ。
たしか・・・あえて隙をみせる・・・だったかな。とりあえずやってみよう。
俺は構えを解き、木剣を片手に脱力してみせた。もちろん目線だけは外さない。
「!!」
あれ?おかしい!目線は一切外していなかったはずだ。
にもかかわらず、気づいたときにはギルバートおじさんが目の前にいた。ヤバい!
「っく!!」
ギリギリのところで振り下ろしは回避できた。
今度はそのまま切り上げてくるはず。直感的にそう判断した俺は、そのまま横に飛び、回避行動をとった。
体勢を立て直し、再び木剣を構える。
ギルバートおじさんは、やはり一切の隙なく俺を睨み据えている。さっきのあれはいったい何だったのか・・・
俺とギルバートおじさんの間には少なくとも十歩以上の距離があったはずだ。それを一瞬。しかも俺の目にも止まらぬ速さで。瞬間移動?いや、魔法の類か?
いちおうこの世界、魔法は存在する。魔力を扱えるようになるのは12歳かららしいが。
でも、摸擬戦では魔法は使用しない決まりだ。だからきっとギルバートおじさんも魔法は使っていないはず・・・
とりあえずもう一度隙をつくってみよう。次は見切ってみせる!
だがしかし俺の予想に反してしばらく睨みあいが続いた。
俺は瞬き一つせずギルバートおじさんを見据えていた。
・・・なぜ動かない。
先ほど回避されたから警戒している?
いや、仮に瞬間移動(?)が使えるなら俺の背後をとればいい。それなら回避なんてできやしないだろう。
発動条件がある?体力を著しく消耗するとか?
いやいや、それならそろそろ使ってきてもいいはずだ。さっきと今で何が違う?
・・・・瞬きか?
意識しなければ人間は、一定の間隔で無意識に瞬きをしてしまう。
俺はあの時、特に意識していなかったし、瞬きくらいしていたかもしれない。
今俺は意識的に瞬き一つせずギルバートおじさんを睨み据えている。
ギルバートおじさんの目を見てみた。目が合った!
どうやらギルバートおじさんはジッと俺の目を見続けていたらしい。
なるほど。タネはわかった。俺が瞬きした瞬間に間合いを詰めてきただけだったようだ。
しかし、どうしたものか。
タネはわかったから回避はできるだろうが、攻撃する隙が無い。このまま硬直していてはジリ貧だ。
いずれ回避できずに負けるだけだろう・・・・・なら!
「はあああああああああああ!!」
俺は勢いよく飛び出し、腰を落としながら横薙ぎを繰り出す。
当然弾かれるが、これでいい。弾かれた衝撃を利用して身体を捻りながら一歩近づくと同時に突きを繰り出す。
「っつ!!」
直後、手に走る痛みに顔を顰めてしまった。ギルバートおじさんに木剣をたたき落とされてしまったのだ。
「・・・参りました。」
「・・・ふぅ。お疲れ様ジェフ君。」
「手も足もでなかったです。ギルバートおじさん。」
「いやいや、ジェフ君。よくあの一瞬で私の動きに気づいたね。初見で気づかれたのはキミが初めてだ。それにさっきの動きにも驚かされた。あと少しリーチが長ければ私に届いていただろうね。実に見事だったよ。」
「二人ともお疲れ様。素晴らしい試合だったじゃないか。どうだ、ギル。うちの息子はすごいだろう?」
「ええ。これでまだ十歳ですか。将来が楽しみですね。」
摸擬戦を終えた俺たちはしばらく語り合ったあと一緒に夕食を食べた。