81 どこの王子様ですか?
笑顔が眩しい。
やっぱりクリスはこうでなくっちゃな。
家庭の事情についてはやるせない気持ちになるが、おかげでクリスと出会うことができた。これだけは素直に喜ぶべきだろう。
(俺の初めての友達がお前で良かったよ)
心の中で言っておく。
さて、あれやこれやと騒ぎ立てているうちに、無事に目的地へと到着できたみたいだ。御者の掛け声とともに馬がひと啼きすると馬車が止まり、扉が開く。
クリスの後に続いてステップを降りるとそこには、
「「「ようこそマグズウェル伯爵邸へ!」」」
開け放たれた大きな門と左右に並ぶたくさんの使用人たち。綺麗にそろったお辞儀が、まるでアーチを作っているようで少し面白い。
ワクワク感に胸を躍らせて歩き進めると、やがて見えてきたのはこれまた立派なお屋敷だった。
その大きさもさることながら、汚れ一つない純白とそれを彩る金の窓枠が太陽の光を反射して存分に輝くさまは、神秘的ですらある。
そうして現れた玄関扉には翼を広げたペガサスの紋章。やはりマグズウェル伯爵家の家紋だったようだ。
俺は促されるままに屋敷の一室へとたどり着く。
そこにはすでにパーティー用の衣装と着付け師と思しき男性が二人ほどいて、
「「ようこそおいで下さいました。ジェフリー・カーティス様。本日は私たちが着付けを担当させて頂きます。」」
深々と頭を下げながら挨拶をしてくれた。
俺は軽く会釈だけして身を任せる。
正直言うと、あれほど丁寧に挨拶してくれたのに、一切しゃべらないで済ませるというのはとても居心地が悪い。
しかし、こういう時は会話をしないというのがマナーらしいので、グッとこらえる・・・はぁ~つらいな。
――そうして身をゆだねること少し。
プロの着付け師さんたちはやはり凄かった。
服を脱がされたと思った瞬間には、すでにもう一人の着付け師さんの手によってドレスが着せられており、着替えが終わったと思ったら、もう髪のセットまで完了していたという早業である。
で、そのドレスなのだが・・・これは豪華すぎる!!
鏡に映るイケメンはどこの王子様だ?!
白を基調とした細身のシルエット。肩や袖口には金色の刺繍が優雅に踊っている。
加えて、胸ポケットに添えられた青いバラのアクセントが、一気に落ち着いた雰囲気を与えているため、全体的にグッと引き締まっていて実にスタイリッシュだ。
いや、本当に誰だよこいつ。カッコよすぎだろ!
鏡をのぞき込んでソワソワする俺。
そんな俺の自画自賛(?)を止めてくれる救世主がようやく現れた。
「ジェフ君! 準備はいいかい!!」
我が親友クリス・マグズウェルである。
俺はその声に振り向き、親友の姿を探す。
ってあれ? なんだこの光り輝く美少年オーラは! 眩しすぎる!!
「お、おう・・・お前も中々・・・」
「ん?」
小首を傾げる姿すら様になっているのだから末恐ろしい奴だ。
「・・・いや、何でもない。準備万端だ。」
「それじゃあ行こう!!」
クリスに背中を押されながら部屋を出る。
俺は去り際、着付け師さんたちに小声で言った。
「ありがとうございました」
キリっとした着付け師さんたちの口元が少しだけ緩むのを見て、思わず嬉しさがこぼれそうになったのは内緒である。




