78 我流奥義
お互いに木剣を構え直し、再び向かい合う。
俺はさきほどの攻防から相手の力量を分析していた。
やはり筋力は向こうが上、技量は俺のほうが上だろう。それからあいつの間合いは、一足一刀、普通の大人と同様大体二メートル前後。突きを考慮しても三メートル前後くらい。
対して俺の間合いはヤツよりも半歩ほど短い感じだ。さっきのカウンターもリーチが長ければイケていただろうけれど、もう半歩のところで避けられてしまった。
驚異的な反射神経のせいで、あと半歩が遠いのだ。ここをどうにかしなければ勝ちきれないどころか、攻撃も当てられないだろう。
それなら・・・
「今度は俺から行かせてもらう!」
先ほどとは打って変わり、一直線にマリウスへと突撃していく。
「はぁあああ!!」
マリウスのほうも勢いよく迎撃してきた。
俺の斬撃を軽々と受け止めつつ、即座に重い反撃を繰り出してくる。
「はっ!」
そうして隙を見ては鋭い突きを放ってくるが、
「ふっ!」
間合いは把握済み。
それが分かるように、俺は自身の剣先を相手の剣先にピタリと付けてやる。これもちょっとしたイタズラ心だ。ぶっちゃけただの挑発だけれども。
「ん!? くっ!!」
一瞬の膠着のあと、マリウスの攻撃がより激しくなった。縦に横に斜めに、俺たちはお互いに剣を打ち合い、激しい攻防を繰り広げる。
「はぁあああ!!」
「ふっ! ふっ!」
だがこれは体力勝負などではなく、一方的にマリウスの体力を削る作戦だった。
マリウスの剣は重く鋭い。しかしそれゆえに一撃一撃が全力投球なのだ。挑発の効果もあったかもしれない。
これに対して俺は弾き飛ばされない程度にしか力を入れず、大半は相手の剣筋を逸らすのみ。攻撃時にも一瞬力を込める程度に留めているのでそれほど体力は使っていない。
おそらくマリウスは気づいていないだろう。
これが技量の差だ!
それからしばらく打ち合いが続き、
――やがて
「はぁはぁ・・・さすが・・せんぱい・・ですね!」
「はぁはぁ・・マリウス・・こそ・・・中々・・やるな!」
お互いに息が上がっていた。
いや、こいつの体力おかしいって!
どんだけ打ち合ったと思ってんの?!
気づいたらもう夕方だよ?
授業時間とっくに過ぎてるって!!
なのに周りの生徒も、教官たちですら何も言わない。まるで言葉を発してはいけないような張り詰めた空気を醸し出している。完全にこの戦いに見入っているようだ。
でもそろそろ疲れたんだよな・・・。
いい加減決めさせてもらいたい!
何度目か分からないつばぜり合いの中、俺は深呼吸を一つ。
集中力を極限まで高める。
思い浮かべるのは父さんに勝ったときの技。何度も再現しようとして、ようやくカタチになった俺の技。
その名も我流奥義【流転】
我ながらカッコイイ技名を付けたもんだ!
――まずは相手の上段斬りを流れるようにいなす。
さらにそこから、自分の剣を重ねて下に押し込んでやる。
相手が剣を持ち上げようと思い切り力を込めたその瞬間、
「ここだ!」
後ろ足とともに身を半歩だけ引きながら、自身の剣先と相手の剣先を絡め、手首の捻りをきかせて一気にかち上げる。
「はっ!?」
マリウスの剣は天高く舞い上がり、やがて赤く染まった静寂の中に “カラン” と乾いた音を落とした。
――瞬間。
「「「わぁああああああ!!!」」」
爆発した歓声が訓練場の隅まで響き渡った。
ようやくライバルを登場させられました。
中々の化け物っぷりですけど(笑)




