73 告白
――次の日。
朝食をさっさと済ませた俺は、あとから起きてきたクリスを見つけ、
「クリス、悪い! 俺ちょっと用事があるから先行くわ!」
そう一声かけてから急いで教室へと向かった。
教室に着いて早々、俺は目的の人物を探した。
よし! いつも通り、すでに席に座っているな。
俺の視線の先には机に肘をつき、少し不機嫌そうに頬を膨らませて窓の外を眺める黒髪の女の子、マルティナがいた。
俺は自分の荷物を机に置くと、すぐさま先制攻撃を仕掛ける。
「ティナ! 昨日はごめん!! どうか俺を許してほしい!!」
精一杯の謝罪という先制攻撃は、しかし不発に終わったようだ。
「・・・」
ティナは黙したまま一向にこちらを見てくれない。むしろ、首を深く捩って目線をより遠くへと飛ばしてしまった。
う~む。これはそうとう怒っているということだろうな。きちんと俺の気持ちを知ってもらわなければ、この状況はきっと変わらない。
俺はそう思い、あの時感じたことを素直に伝えることにした。
「ティナ。俺は、きみの腕を見たとき『負けられない!』って思ったんだ。残った傷の一つ一つ、ううん、きっとそれだけじゃない。きみは誰も知らないところで、その何倍もの努力を積み重ねてきたんだと思う。俺には分かるんだ」
ここでようやくティナが少しだけ動いた。
よし! もう一押しだ!
ティナを振り向かせるため、俺はさらに言葉を重ねる。
「だからね、ティナ。その努力の証はみっともなくなんてない。ちっとも、醜くなんてないんだ。きっともっと誇っていい・・・・・俺はそんな頑張り屋のティナが大好きなんだ」
なんだろう。ものすっっっごく恥ずかしいけれど、心の中がスッキリしたような、晴れやかな気分だ。きっと俺の顔、真っ赤だろうけれど・・・。
俺の言葉はティナに届いただろうか。きっと届いたのだろう。ようやくティナがこちらを向いてくれた。
俺は恐る恐るティナの顔をチラリ。
ん? あれ? おかしいな。
もう一度、チラリ。
耳まで真っ赤に染まった顔には、いつも以上の鋭い目つき。
もしかして逆効果だったとか?
ここまで迫力のある彼女は見たことがないから分からない。分からないが、ぶっちゃけめちゃくちゃ怒っているようにしか見えないんですけど! 何勝手に分かった気になってんだ、とか言って怒られるかも!
内心怯えている俺に、ティナは少し震えた声で、
「な、な、な・・・なに恥ずかしいこと言ってんのよ! バッカじゃないの!! こ、この、変態紳士!!」
完全な罵声を浴びせてきた。
あれ? 罵声で良いんだよな?
変態紳士って、紳士ってついているけれど、結局ただの変態だよな?
ティナが言うと一周回って褒め言葉になるとか、そんなことないよな?
ああもうわけが分からん!
とりあえずティナの反応を見るに、怒っているわけではなさそうだし。これは、許してくれたってことでいいのかな? そう思うことにしよう。いや、もうそういうことにしよう。
俺はティナをしっかりと見据えて言う。
「ありがとう!」
「ふんっ!」
ティナはそっぽを向いてそれに答えた。
長い黒髪の隙間から垣間見えた横顔が、ほんのちょっとだけ笑っているように見えたのは、俺の気のせいだろうか?




