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転生騎士の英雄譚  作者: 青空
騎士予備校
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70 初めての回復魔法

全員が二人一組になったのを確認し、ウィル教官が回復魔法の説明を始める。


「いいか貴様ら! 回復魔法というのは、単純な身体機能を上げる身体強化の魔法とは違い、傷ついた細胞を魔力で活性化させることによって治癒を促す魔法だ。したがって、傷を治すのと引き換えに患者の体力を著しく消耗させてしまう。一気に大量の魔力を流して回復させようとすると、“大変なこと”になるから十分注意するように!」


「はい! ウィル教官!」


はじめの注意事項を聞いて、クリスがさっそく挙手をする。


「どうした? クリス」


「“大変なこと”とは具体的にどんなことでしょうか?」


「簡単な話だ。体力、すなわち生命力が尽きれば生き物は死ぬ。急いで回復させようと無理をさせた結果、逆に死を早めただけだったということが起こり得る。特に重症の患者の場合、見極めが難しいんだ。だから絶対に回復魔法だけは完璧にマスターしておけ。いいな?」


ウィル教官は少しだけ苦い顔をしながらそう語った。きっと王国騎士時代に戦場で経験してきたことなのだろう。


もしかしたら、助けようとした命を自ら断ってしまった経験すらあるのかもしれない。言葉の端々にそんな実感が込められているように感じられた。


教室内に広がった微妙な空気を吹き飛ばすように、ウィル教官が元気に説明を再開させる。


「よし! それじゃあ実際にやっていくぞ。まずは手本を見せる。そうだな・・・ジャン。お前、ちょっと前に来い」


ウィル教官に指名され、大剣使いの男子生徒ジャンが前に出る。


「は、はあ」


「んじゃまあ、とりあえず、利き腕を出せ。よくマシューに叩かれているほうの腕だ」


「な、なんで知ってんすか?!」


「フッ。お前らしょっちゅう摸擬戦してるからな! それくらいは分かる」


「はぁ~。これでいいっすか?」


若干驚きながらも、ジャンは大人しく右腕を差し出した。


「よし。まずは患部を確認するんだ。打ち身程度であれば問題ないが、骨折や肉体の欠損がある場合には先に応急処置をしておく必要があるからな。そのへんについては追々教えていくから、今は頭の片隅においておくだけでいいぞ」


ウィル教官はジャンの右腕の袖をまくり上げ、青くなっている部分(打撲痕)を検める。


「次に、魔力を手のひらに集めながら、患部に手を当てる。すでに知っているだろうが、自分の魔力を他人に流すことは基本的にできない。だから当然、このままでは患部を治癒することもできない」


そう言いながら手のひらを返し、一度触った患部を見せてくる。


うん。さっきと全く変わっていない。


「しかし、ここで【治癒(θεραπεία)】!」


ジャンの腕に手を戻し、回復魔法の呪文を唱えるウィル教官。


「「「!?」」」


次の瞬間、ウィル教官の手のひらが薄っすらと輝き始め、気づいたときにはジャンの腕にあった打撲痕が消えてしまっていた。


「まあ、こんな感じだな。ジャン、倦怠感はないか?」


そしてウィル教官は、すかさずジャンに声をかける。


「だ、大丈夫っす!」


「軽傷であっても、身体に負担をかけすぎると倦怠感があらわれる場合があるから、必ず治療後は患者に状態を確認するんだ! 分かったら早速やってみろ!」


一通り説明は終わったみたいだ。

あとは実戦でって感じかな?


俺はティナのほうに向きなおり声をかける。


「それじゃあティナ、早速やってみよう!」


「ま、まずはあんたが腕を出しなさい」


「え? 俺も・・・」


「いいから!」


うむを言わせずに傷を見せるように要求してくるティナ。


あれ? 意外とやる気満々な感じなのかな?


「はいはい。」


俺は大人しく腕を差し出す。


「結構傷だらけなのね・・・」


ティナは俺の腕を見て、少し驚いた様子だ。


「まあ、色々あってね・・・」


ザッシュとパーティーを組んでから冒険者活動をする機会がかなり増え、俺の依頼達成率はかなり向上し、Bランクにも昇格できた。


結局二人で稼いだ報酬はほぼ【収納袋】に使ったため、今でも金欠状態であるのは変わりないが。まあ、これがあれば大きな魔物や素材も大量に運べるからすぐに元は取れるだろう・・・たぶん。


「そ、それじゃあやるわよ! 」


っと、今は授業中だったな。


ティナが俺の腕に回復魔法をかける。


「【治癒(θεραπεία)】!」


おお!傷が綺麗に塞がっていく!


「うおっ!?」


感動したのもつかの間、急に腕がだるくなり力が入らなくなった。


「だ、大丈夫!?」


驚いたティナがすぐに魔法を中断する。


「大丈夫。でも、腕に力が入らなくて・・・」


「ご、ごめん・・・」


落ち込んだように(うつむ)くティナ。


俺はなんとなくその様子が見ていられなくて、ちょっとおどけた口調で言う。


「これは放課後練習が必要だね!」


「う、うん・・・」


しかしティナの表情は晴れない。

あまり効果はなかったようだ。


結局俺のほうも、腕の具合が戻らず、そのまま授業時間が過ぎてしまった。


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