68 慣れた頃が危ない
ザッシュと出会って数か月が経った。
今までは獣人ということもあり、クラスにあまり馴染めていない様子だったが、俺とつるむようになってからは大分いい感じに打ち解けたみたいだ。
いつの間にか番犬のように、俺に挑んでくるカフスを返り討ちにしてくれるのは、正直ありがたい。
ただ、ティナやサーヤが来た途端に大人しくなるのは、一体何なのだろう?
最近ではこんな一幕もあった。ザッシュが俺に武器の使い方について聞いてきたときの話である。
「なぁジェフ」
「どうした? ザッシュ」
「最近気づいたんだが、お前ってどんな武器でも器用に使いこなすよな」
「そうか?」
「俺の場合、短剣と長剣の両方腰に差してるけど、メインはやっぱり長剣のほうなんだよ。でさ、短剣を構えた時の姿勢とか動きが・・・ひっ!?」
なぜか急に身を隠すザッシュ。
「ん?」
いきなりどうしたのかと思ったら、ティナが席に戻ってきたのだ。
耳が隠れていないけど・・・いいのか?
そんなどうでもいいことを考えていたら、ティナがこっちを見ながら、
「・・・あんた」
あ、これ怒ってる時のやつだ!
よく見たら目がいつもより吊り上がってるもの!
俺は気づかないふりをして、できるだけ冷静に応じる。
「ど、どうしたの? ティナ」
しかし、ターゲットは俺ではなかったみたいで、
「ジェフじゃないわよ! そこの!」
思いっきりザッシュを指さす。
『ズビシッ!!』という効果音が聞こえてきそうだ。
「ひぃいいいい!!」
おい! 俺を盾にするな!
「あんた一体何なのよ! いっつも私が来ると隠れて! 喧嘩売ってんの!!」
「ひぃいいいい!!」
おいザッシュ!
お前のほうがまだ辛うじて強いはずだぞ!
しっかりしろ!
迫力は完全に負けているけどな・・・。
「まあまあ。ティナ、落ち着いて。」
「あんたには関係ないわ! どきなさい!!」
「まあまあ。せっかくの可愛い顔が怖いよ?」
「ひぅっ!? い、いきなり何なのよ! しゃしゃり出てこないで! この、だ、伊達男!!」
よしよしいつも通りの調子に戻ったぞ。相変わらず怒られているのか、褒められているのか、分からないけれど・・・。
とにかく面倒くさいのは回避だ!
「あっ! ウィル教官だ。そろそろ席に着こう! ほらほら、二人も」
「ふんっ!」
大人しく席に座るティナ。
「恩に着るぜ、ジェフ」
小声で礼を言ってくるザッシュ。
いいからお前は早く行け!
それからこんなこともあったな。
とある日の剣術の授業中である。
「師匠お願いです! もう一度! もう一度だけ!!」
その日は、カフスがやたらと食い下がる日だった。
「もういいだろ! 出直してこい!」
「師匠! そこをなんとか!」
ああもう勘弁してくれ!
そんな時、番犬ザッシュが現れた。
「おいカフス! いい加減諦めろ!」
「ザッシュ君には関係ないだろう!」
「鬱陶しいんだよ!」
「なんだと! 貴様、僕に喧嘩を売っているのか?」
「へっ! 買う度胸があんなら売ってやるよ!」
「貴様ぁああ!! 決闘だ!」
一触即発の二人。
しかし、ここで乱入者が現れる。
「兄さん! 決闘はしない約束でしょ!!」
「さ、サーヤ! ち、違うんだ!これは・・・」
カフスがザッシュに目を向ける。
サーヤもそれを追って目を向けようとしたところ、
「はっ!?」
ザッシュは一瞬で俺の背後に隠れやがった。
おい! 何なの!
さっきまでの威勢はどこへいった!!
しかも、尻尾が左右に動いているから隠れてんのバレバレだぞ・・・。
こんな感じで、よく分からないが中々面白い奴。
それがザッシュという男なのだった。
とかここ最近の出来事をなんとなく思い出していたら、突然号令が聞こえてきた。
「起立!」
「「「ザッ!!」」」
フッ。俺もだいぶ慣れたもんだ。
この程度じゃあ驚きはしない。
所詮いつものウィル教官だな・・・。
しかし次の一言で、その自惚れを粉微塵に打ち砕かれる。
「よーし!全員揃ってるな。んじゃまぁとりあえず、隣の奴の服を脱がせ。」
「・・・・・・は?」




