67 名前を書くだけの簡単なお仕事
俺たちは少しの休憩の後、何事もなく王都の冒険者ギルドへ戻った。
しかし、ここで困ったことが一つ。
俺たちの本来の目的、ドラゴンテイルの討伐ができていなかったのだ。
やっべ! すっかり忘れてた!
今回の事情をギルドのほうに説明したところ、
「依頼のほうは失敗扱いとなりますが、脅威度Aランク相当のサラマンダーを討伐したため、そちらの実績も反映させて頂きます。報酬に関してはドラゴンテイルの討伐依頼の仲介料などを差し引いた金額、100万リアをお支払い致します。それから、今回の功績を評価し、パイ様はランクAに、ザッシュ様はランクCに昇格となりました。ジェフ様のほうも大きな加点となりましたので、昇格までもう少しです!」
とのこと。
さらに、こんな激励(?)も頂いた。
「ただ、ジェフ様の場合、依頼の達成率が・・・その、あれなので・・・次回以降の依頼失敗は必ず避けてください。比較的難易度の低いものをいくつか受注して、達成率を上げておいた方がよろしいかと思われます」
完全に警告でしたー!
やべー! 次回依頼を失敗すると冒険者資格がはく奪されてしまう!
近いうちに簡単そうな依頼を受けておこう。
溝さらいでもいいから!
っとそれはさておき、本日のメインイベントを始めるとしよう。
報酬の分配だ!
「ザッシュ!」
俺は静かに去ろうとするザッシュを呼び止めた。
どうやら報酬を受け取らずに帰るつもりだったらしい。
なんて奴だ! 聖人か!
「ほら、ザッシュ!」
一向に振り返らないザッシュに、俺は金貨の入った小袋を投げつける。
「っつ!?」
「ナイスキャッチ!」
さずがザッシュ、きっちりと小袋を掴んでみせた。
実は、少し犬と遊んでいるような気分になったのは内緒である。まあ、遊んだことなんてないんだけれども・・・。
ちなみに、報酬の分配については、予めパイさんとも相談していたのだ。
今回、最後の場面。もしザッシュがいなかったら、あのまま作戦は失敗していただろう。偶然かもしれないが、あの場にザッシュがいてくれて本当に良かった。
そして、己の恐怖心に打ち勝ち、見事立ち向かってみせた彼の勇気。それが何よりも尊く、評価されるべきものだと、俺には感じられたのだ。
まあ、もっと簡単に言ってしまうと、一緒に戦えたことが嬉しかった。
それだけかもしれないけど・・・。
そんな俺の気持ちを汲んでくれたのか、パイさんも問題なく賛成してくれたため、今回は報酬を三等分にして分配したのである。
小袋の中身を確認したザッシュは一瞬驚き、
「お、おい!これ!」
モフモフの耳を立てて俺に詰め寄る。
「まあまあ。今回は助けてもらったから」
「で、でも! こんなに貰えねぇよ!」
「貰えるものは貰っとけ!」
「いや、お前・・・これ三等分じゃないだろ?」
おっと、何か小声で言っているが聞こえないな。
「はぁ~。どうしても貰えないって言うなら、これに名前を書け」
ザッシュの言葉を無視し、俺は一枚の紙を差し出す。
「ん? これ・・・」
「ほらほら! 名前を書くだけで大金が手に入るなんていい仕事だろ?」
「・・・パーティー申請じゃねぇか」
「大丈夫! パイさんも承諾済みだ!」
「しょ、しょうがねぇな・・・」
ザッシュは尻尾を高速で振りながら渋々(?)書類にサインする。
パーティーメンバーが一人増えた。
ラッキー!




