66 臆病者の救世主
俺たちはサラマンダーの側面を通り越し、そのまま崖の方へと走っていく。
一瞬の逡巡を見せるも、結局パイさんを追っていくサラマンダー。
よし狙い通りだ。
「パイさん! このまま行きますね!」
「いいわよ!」
俺たちはサラマンダーが追ってきているのを確認し、崖を上っていく。
ヤツも自慢の鋭い爪をガリガリと突き刺しながら崖を上ってきた。
狙い通りだけれど、おっそろしいな!
どうしてあの巨体で上って来られるんだよ!!
やがてサラマンダーの全身がすっぽりと収まった瞬間。
ここだ!
「パイさん!」
「ジェフ君!」
俺はこぶし大の石にロープを巻き付け、パイさんのほうに投げる。
「あっ!」
無事にキャッチできたかに見えた石は、しかしパイさんの指先にギリギリ届かず通り過ぎてしまう。
やっべ!
「えっ!?」
と、ここでまさかの起死回生。
パイさんのさらに奥、取り損なった石をキャッチした人物がいた。
「あいつは!」
ザッシュである。
マジか!?
てっきりもう逃げたと思ってたのに!
呆気に取られている暇もなく、ザッシュの叫び声がこちらへ届く。
「おい! これ、どうすりゃいいんだ!!」
俺はすぐさまザッシュに指示を出す。
「とりあえず腕に巻きつけろ! 絶対に放すなよ!」
ザッシュがロープをしっかりと握りしめたタイミング。
ここだ! 俺はザッシュに声をかける。
「ザッシュ!! 下だ!!」
「は、はぁあああ!? 無理無理無理ぃいい!!」
泣き言は聞かん!
「いくぞ! せーのっ!」
「ひぃいいいい!!」
「しっかり握ってろよ!」
俺たちはロープを張った状態で、崖を上るサラマンダー目掛けて突っ込んだ。
狙いはヤツの首元。そこにロープを引っ掛けて地上に突き落とす作戦だ。流石にロープであの巨体を持ち上げるのは無理だが、この方法なら重力が味方してくれる。
しかし、念を入れてもう一声。
「パイさん!」
「了解!」
俺の意図をすぐに察したパイさんは身体を反転。
サラマンダーの顔面目掛けて突っ込み、
「はぁあああああ!!」
下顎にドロップキックを喰らわせる。
俺とザッシュ二人の体重とパイさんの力強い一撃により、サラマンダーが背中から落下していく。その巨体は、あっという間に地面に激突し、物凄い轟音をたてて、谷底に大きなクレーターをつくった。
まあ、これだけじゃ全然ダメージないだろうけれど・・・。
俺たちはすぐさまガラ空きになったサラマンダーの腹にのぼり、一心不乱に攻撃を加えていく。
とにかく連打! 連打! 連打!!
起き上がったらもうチャンスはない。
これで仕留めなければ!
「はぁああああ!!」
「だらぁああああ!!」
「ひぃいいいい!!」
なんとか身体を起こそうと、必死に手足を動かしてもがくサラマンダー。
それを許さないとばかりに、めっためったに殴りつけるパイさん。
そして、剣を手に鬼神のごとく暴れ回る俺とザッシュ。
・・・若干変な悲鳴のようなものが聞こえてくるが気にしない。
――数十分後。
ようやくサラマンダーは力をなくし、動かなくなった。
「・・・」
俺たちは互いに顔を見合わせる。
少しの沈黙のあと、それぞれの顔が喜色に染まり、
「「「・・・勝ったぁああああ!!」」」
勝利の雄たけびが渓谷に響き渡った。




