64 焼き加減はレアで!
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俺はザッシュとの会話を打ち切ったあとも岩陰に隠れながら移動を続けた。
そして、ふと後ろを振り返る。
「まあ、いるはずないよな・・・」
おそらくザッシュは逃げたはずだ。俺と会話したからか、身体の震えはなくなっているように見えたので、立ち上がって逃げるくらいならできるだろうから。
「死ぬのは怖い、かぁ~」
あいつの言ったことが妙に耳に残っている。
ここ最近、というかあの夢を見てから、死の恐怖というものをあまり感じない。きっとあの壮絶な記憶に引っ張られているのだろう。
もちろん、いつ死んでもいいなんて思っているわけではないし、死ぬのは嫌だ。でも、俺の憧れた騎士は、英雄は、きっとそんな恐怖にさえ打ち勝つ強さを持っている。
そこに到達するために。
俺は逃げない!
絶対に強くなるんだ!
俺はもう一度自分に言い聞かせ、前に進む。
そうしてサラマンダーの真横まで移動すると、まずは戦闘の様子を伺う。
う~む。流石は亜竜種。パイさんを近づけさせないように時折り炎を吐き散らしている。パイさんのほうは岩石の投擲をしつつ、少しずつ近づこうとしているようだが、その岩石も強靭な前足であっさりと砕け散り、あまり効果がなさそうだ。
ヤツを倒すには、まずあの炎を何とかしなければ。
火を消すならやっぱり水だよな・・・。
水魔法であの炎を無効化するか?
でも、俺の魔力でもヤツを丸ごと水に沈めるのは厳しいしな・・・。
あのバカでかい口に大量の水を放り込んでやるか?
ここからじゃ遠すぎて、今の俺では難しいが、近距離まで行ければなんとかなるかも!
考えをまとめた俺はタイミングを計りながら、
「いまだ!」
勢いよく駆け出し、一気にサラマンダーの脇腹へと接近する。
「うわっ!?」
しかし、こちらの動きを察知したのだろう。サラマンダーは尻尾を使った強烈な横薙ぎをはなってきた。
「ちっ!」
俺は強化されたジャンプ力で真上に大きく飛びながら体を捻って避ける。そこからさらに剣を抜き放ち、捻りを利用して尻尾を切りにかかるが、
「硬っ!?」
その真っ赤な鱗には少し傷がついただけで弾かれてしまった。
ああくそっ!
剣に魔力を通せれば!
【纏い】が使えれば!
現状の俺ではあの硬い鱗を突破することは難しそうだ。やはり直接的なダメージを与えられそうなのは鱗に覆われていないお腹周りくらいか・・・。
て、やばっ!
サラマンダーは、尻尾に弾かれた衝撃で体勢を崩したまま空中にいる俺に狙いを定め、自慢の炎をお見舞いするつもりのようだ!
「くっ!【水球】!」
俺は咄嗟に自身を水球でくるむ。
しかし、サラマンダーが放つ業火の勢いは驚くほど強く、ジワジワと水球が小さくなっていく。マズい!
このままでは、じきに丸焼けだ!
美味しいこんがり肉にされてしまう!
『上手に焼かれました~!!』
とかシャレにならん!
若干本気で焦っていたところに、
「はぁああああ!!」
パイさんの雄たけびが聞こえてきた。
パイさんはヤツがこちらを向いた隙を見逃さず、顎下へと急接近すると、渾身のアッパーを喰らわせた。
強烈なアッパーによる衝撃でヤツの顎が大きく上を向く。
「いまだ!【水球】!」
俺は膨大な魔力を練り上げ、ドでかい水球を作り出し、
「これでも喰らえ!!」
そのまま、大きく開かれたヤツの口に思い切り叩きつけた。




