63 騎士道
睨み合いを続けた一人と一頭であったが、やはり先に動いたのは獣人の少年だった。
「ひぃいいい!!」
というか、全力疾走で逃げている。
え?お前が誘導したんじゃないの!?
ヤバい!こっちに向かってくる!
それに、
「あの~パイさん。それは・・・」
パイさんは収納袋からナックルガードのようなものが付いた篭手(?)を取り出し、両腕にしっかりと装着する。腕を守るというより、完全に殴るための装備だ。
「ああ、これ?面白いでしょ!こんな変わった篭手を作る鍛冶師いるのね。一度でいいから会ってみたいわ。」
それ、きっと俺の篭手を作った人と同じ人の作品ですよ!そこはかとなく無骨な感じと“殴る”という機能性だけを重視した感じが滲み出てますもん!
ってそうじゃなくって!
「戦うんですか?あれと。」
「もっちろんじゃない!あんな殴り甲斐のある獲物、そうそういないわよ!ジェフ君もいい腕試しになるんじゃない?」
やっべ!パイさんのテンションがMAXだわ。
しかも、俺も一緒に戦うのが前提みたい。
こりゃあ逃げられないね・・・。
「「【身体強化】!」」
同時に身体強化の魔法を発動すると、パイさんの指示が飛んできた。
「まずは、私が正面から惹きつけるわ!ジェフ君は側面からお願い!」
「了解です!」
パイさんは颯爽と岩陰から躍り出て、一直線にサラマンダー目掛けて駆けていく。
俺はパイさんのあと、一拍おいてから岩陰を飛び出し、サラマンダーの側面にまわるよう斜め方向に走った。
所々にある岩陰を利用しながら着実にサラマンダーの側面へと近づいていく。しかしその途中で、別の岩陰からいきなり声を掛けられる。
「おい!お前!」
そちらへ目を向けると、先ほどの少年が蹲っていた。
「なに?」
どうしたのだろうか。聞いてみても少年はなにも答えない。
「・・・」
よく見ると自慢の耳をぺったりと垂らし、剣を抱えて震えている。
「どうした?大丈夫か?」
もう一度声をかけてやるが、やはり少年はなにも答えない。
「・・・」
俺は、つい苛立って少年を怒鳴りつける。
「急いでいるんだ。早くしてくれ!」
一瞬ビクッとなった少年は、震える声で話しだした。
「お、お前。ジェフリー、だったよな?」
やはり騎士予備校のクラスメイトだったらしい。だが、名前が出てこない。
「え~と、誰だっけ?」
「・・・ザッシュだ。」
「雑種?」
「発音がおかしい!ザッシュだ!」
「ああ、悪い悪い。で、何の用だ?急いでいるんだが。」
「え、えっと、その・・・た、戦うつもりか?アイツと。」
「お前は戦わないのか?」
「あ、当たり前だ!あんなのに敵うはずない!死ぬぞ!」
「お前、何しに洞窟に入ったんだ?」
「お、お金、稼ぎたくて。あそこなら、ドラゴンテイルがいるかもって・・・そしたら・・・」
おっとザッシュも同じ目的だったようだ。つまり俺たちより先に入って運良く(悪く?)大物を引き当てたってことか。
「・・・お前も金欠なのか?」
「キン?何だって?」
「いや、何でもない。なんでそんなにお金が欲しいんだ?」
「お、俺、孤児院育ちなんだ。でも、最近寄付金が集まらないらしくて、その孤児院潰されそうで・・・俺、少しでも恩返ししたくて・・・」
「じゃあなんで、こんなところで小さくなってるんだ?」
「だ、だって、あんなの・・・し、死にたく・・ないし・・・。こ、怖くて足が震えるんだ!剣だってまともに振れやしない!」
「ならそこで蹲ってろ!・・・お前は騎士にはなれやしない。」
「こ、怖くないのか!あんなバケモノと戦うんだぞ!」
「怖くないって言ったら嘘になるかもしれない。でも、俺は強くなるって決めたんだ。そして、目の前のもの、大切なもの、その全部を守ってみせる。だから逃げない。これが俺の騎士道だ。」
俺はそれだけ言い捨てると、会話を打ち切り再び走り出した。




