62 あれは・・・
たどり着いたのは大きな横穴だった。
どうやらここを住処にしているらしい。何度か出入りしたような跡がある。
とりあえず俺たちは洞窟の手前で足を止め、今後のことを話し合う。
「どうします?」
「このまま行きたいところだけれど。深さが分からないわね・・・」
「火魔法で照らしましょうか?多少できるようになりましたから。」
実は、以前ウラノスに向かう道中でミレーヌさんに見せてもらった火の魔法、あれをこっそり練習していたのだ。野営のときにも便利そうだったからね。
「ん~そうね。入ってみないと分からないし。」
「それじゃあ、【火球】!」
俺は手のひらサイズの火の玉を作り出す。
「へ~凄いわね!私のほうは、放出系なんてからっきしだから羨ましいわ!」
パイさんの場合は身体強化極振りですもんね・・・。
とりあえず洞窟の中に入る俺たち。
しかし、異変はすぐに起きた。
「「!?」」
突然、洞窟の奥から物凄い轟音と突風が飛び出してきたのだ!
さらに驚くべきことに、洞窟の奥から入り口、すなわち俺たちのいる方向に向かって、地震のような地鳴りが迫ってきている。
「こっちに向かって来ているようです!」
「まずいわ!急いで逃げましょう!」
俺たちはすぐさま身をひるがえし、洞窟の入口へと向かう。
幸い入ってすぐだったため、追いつかれる前に洞窟を脱出することができた。そのまま奥から出てくるであろう何者かに備え、洞窟脇にある大きな岩陰に身を潜める。
それらはすぐに現れた。
一つは、洞窟の壁を壊しながら猛スピードで飛び出してくる大きな影。勢い余ったのか向こうの岸壁まで一直線に突っ込んでいく。横穴がもう一つできそうな勢いである。
それに追われるように飛び出してきた、もう一つの小さい影。一瞬でよく見えなかったが、獣人と思しき耳と尻尾が見えた。こちらは冒険者だろうか?
しだいに砂ぼこりが晴れてゆく。
先に見えたのは、こげ茶色の髪の毛に犬のような耳を生やし、フサフサの尻尾が特徴的な少年であった。腰には一対の長剣と短剣を差しているところを見るに、確実に冒険者だろう。
しかし、あいつはたしか・・・。
なんとなく見知った顔のような気がして記憶の中を探っていると、
「グァアアアアア!!」
先ほど大きな影が突っ込んだあたりから、砂ぼこりを一気に吹き飛ばすほどの途轍もない咆哮があがった。渓谷に響き渡る咆哮は乱反射して空気をしびれさせる。
露わになったそいつの全長は二十メートルほどだろうか。
その全身は真っ赤な鱗の鎧に覆われており、大きな胴体から伸びる極太の四肢には鋭い爪がギラギラと光っている。
爬虫類を思わせる切れ目と大きな顎、自慢の四足で堂々と地面を踏みしめるその姿は、まるで物語に出てくる地竜のようだ。
そう。こいつは決して地竜ではない。しかし、どう見ても話しに聞いたドラゴンテイルではないだろう。絶対にBランクやCランクの冒険者が相手するようなレベルの魔物ではない。
「あれは・・・」
驚愕に思わず呟いた俺にパイさんが答える。
「サラマンダーね・・・フフフ!」
いや、最後の笑いはなんですか!?
どうやら俺たちの目の前にいるこの魔物は、なんとも恐ろしい亜竜種の一角、サラマンダーであるらしい。
・・・こいつはあかん!!




