58 クリス、恐ろしい子!
結局、クリスが二人と勝負することになった。
「じゃあ、まずは俺からだ!」
大剣の男子生徒が先に名乗りを上げた。
「ボクはクリス・マグズウェル。手加減はしないよ。」
「俺はジャン。吠え面かかせてやる!」
クリスとジャンが、互いに距離をとって向かい合う。
「ふっ!」
先に動いたのはクリスだった。
ジャン目掛けて一直線に走り出す。
「はっ!おせぇ!」
ジャンは大剣を大きく横薙ぎに振り、クリスを間合いに入らせないようにする。ジャンの持つ大剣のほうが長いため、クリスの攻撃が届かない位置から攻撃する作戦のようだ。
「あん!?」
しかし、クリスはここで驚くべき動きを見せる。
ジャンの大剣が当たらないギリッギリの位置を保ちながら剣を片手に持ち替え、その腕をだらりと下げたのだ。完全にジャンの間合いを見切っているようだ。懐に飛び込む隙を伺っているのかもしれない。
「ちっ!これならどうだよ!」
ジャンも負けじと足を滑らせながら、激しく追いすがる。
と、ジャンがひと際大きな一歩からの縦斬りを繰り出した瞬間だった。
「ふっ!」
クリスは、さっきまでとはまるで違う速さで一足に間合いを詰め、ジャンの懐に入ると、目にも止まらぬ鋭い突きを放つ。凄い緩急だ。
「ぐっあああ!!」
クリスの強烈な突きが右肩に刺さったジャンは、その痛みに耐えかねて絶叫し、握っていた大剣を地面に転がすのだった。
勝負あったな。クリスの圧勝だ。
クリスはジャンに構わず、次の相手に話しかける。
「ボクの勝ちだね!次、やろうか?」
「お、おう。俺はマシューだ。よろしく頼む・・・」
クリスの笑顔がなんか怖い!てか、マシューも引いてるよ・・・。
二人はさっさと配置に着くと、互いに剣を構えた。
「はっ!」
今度はマシューが先に動く。
「おらおらおらおらぁああ!」
やはり両手剣による手数で勝負するスタイルのようだ。マシューはひたすら両手の剣を振り回しながらクリスに迫っていく。
「へっ!」
と思いきや、いきなり片方の剣をクリス目掛けて投擲するマシュー。斬撃を間合いギリギリで躱すクリスの意表をつく作戦であろう。
「ふっ!」
しかし、クリスは身を深くかがめてそれを回避すると、そのままの姿勢から地面を強く蹴り、逆にマシューとの間合いを一歩詰め、先ほどと同じように鋭い突きを繰り出す。
「ぐえっ!」
その突きは、反応しきれなかったマシューの鳩尾深くに突き刺さった。
マシューは腹を押さえて転がるが、クリスは全く気にせず木剣を腰に戻す。
そして笑顔の判定は、
「ん~どっちも同じくらい弱いかな!ジェフ君とやるならもっと強くなってからのほうがいいんじゃない?」
辛辣ぅうううう!どうしたクリス!
お前そんなキャラだったのか!?
いつも元気で優しいクリスだが、今日は余程不機嫌なようだ。先ほどから何やら小声でブツブツと言っているが、呪詛でも吐き出しているのだろうか?
「・・・大体こんな雑魚がジェフ君の相手になるわけないじゃん。力量差も分からないとか話しにならないし。ジェフ君との大事な時間を返してほしいよ。全く。このままジェフ君との朝ご飯まで食べそこねちゃったらどうしてくれるんだ!放課後だってダンスの練習で時間ないのに!」
声が小さすぎて何を言っているか全くわからないが、まあいいや。とっとと寮に帰ろう。朝ご飯を食べそこなったら寮母のマリエルさんに殺される!
「クリス。そろそろ戻ろうぜ。朝ご飯の時間だし。」
「そうだね!早く行こう!」
「お、おう。」
クリスに話しかけると、さっきまでの不機嫌オーラはどこへやら。犬のように髪をフリフリするいつものクリスである。こいつはこれが一番だ!
そんな朝の一幕を終え、俺たちは寮に戻っていった。
ちなみに、ジャンとマシューは少し休んでいくらしい。
何やら遠い目をして寝っ転がっていた。
・・・見なかったことにしよう。




