56 清々しい朝にスパイスを
決闘をした翌日からキルトン兄妹(主にカフス)が、俺の後ろをついてくるようになった。
サーヤはカフスの付き添いというか監視のためについてきているようだ。
困った兄を持つと大変だな・・・。
カフスは決闘でコテンパンにされたことに強い衝撃を受けたようで、あれ以降、俺を師匠扱いしてくるのだ。双子の妹サーヤを守るためにもっともっと強くなりたいのだという。
向上心が高く純粋で気持ちのいい奴なのだが、やたらと俺の真似をしたがるので若干鬱陶しい。
「いい加減鬱陶しいからどこかへ行ってくれ!」
とちょっとキレ気味に言ってやっても一切効果はなかった。
それどころか、
「なるほど。そのように威圧するのですね!参考になります!」
などとわけの分からんメモを取っている始末。
サーヤの言っていた、思い込みが激しく暴走しがち、というのはこういうことだったのか?
さらには、剣術の授業でも俺の真似をして、何だかよく分からない型を披露してくるし、しきりに摸擬戦を挑んでくる。正直面倒くさいとしか言いようがない。
まあ、放課後のダンス練習に協力してくれるようになったのは嬉しい誤算だったのだが。
と、そんな騒がしい毎日を送っている俺だが、唯一心を落ち着けて剣を振れる時間がある。
それがこの時間。
早朝。
ようやく目を覚ましはじめた太陽が、長らく暗闇に閉ざされていた漆黒の空を少しずつ照らしだし、やがて白んだ空気をも柔らかく包み込む静寂のひと時。
聞こえてくるのは、己の命の音と空気を切り裂く木剣の音のみ。
俺は気持ちの良い静寂を胸いっぱいに吸い込み、一心不乱に木剣を振る。
やがて太陽がバッチリと目覚め、街も動き出す。
俺はひとしきり素振りを終え、食堂へ向かった。
が、開いていない。
ちょっと起きるのが早かったかな・・・。
暇を持て余した俺は、とりあえず敷地内でランニングをすることにした。
しばらく走ると訓練場が見えてきたため、一時休憩。
普段は剣術や魔法の授業でしか使わないが、ここは常に開放されているため、予備校生であればいつでも自由に使用することができるのだ。もしかしたら誰かいるかもしれない。戦闘訓練が見られたらラッキー。
そんな淡い期待を胸に、少しだけ覗いてみることにした。
訓練場の扉を開き、廊下を歩いていくと、やがてカツカツと木剣同士が不規則にぶつかり合う音が聞こえてきた。
おっ!どうやら誰かが訓練をしているみたいだ。
しだいに人の掛け声が聞こえてくる。
「はっ!やあっ!」
「ふっ!はぁあっ!」
片方は大柄の男子生徒、もう片方は小柄の男子生徒だ。大柄の生徒は大剣を振り回し、小柄の生徒は両手に剣を持っている。
「はぁああ!!」
「くっ!やぁああ!」
「ふん!」
「ちっ!」
力の載った重い大剣の一撃を柔らかな動きで受け流す両手剣の生徒。そのまま懐に入ろうと踏み出すが、大剣の生徒の蹴りに阻まれてしまう。
実力が拮抗しているのだろう、そのまま膠着状態に陥っている様子だ。
ちなみにこの二人、どちらも同じクラスの生徒で、カフスやティナよりも強い。大剣と両手剣のためクラスでは浮いた存在だが、そんなの関係ないとばかりに我が道を行くタイプなのだ。
っと、摸擬戦が終わったようだ。
二人は何事か話し終えると、こちらへ向かってくる。
寮に帰るのだろうか?いや、真っ直ぐに俺の顔を見ているな。
目が合った途端にニヤつき、猛スピードで走って来る二人。
また面倒くさいのにからまれたかもしれない・・・。
なんて日だ!




