55 妹想いのお兄ちゃん?
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「なぁ。もういいだろ?」
「まだだ!お前はサーヤにふさわしくない!」
「いや、だからサーヤって・・・」
「うるさい!妹に手を出す奴は僕が許さないぞ!」
「話聞けって・・・」
はぁ~面倒くさい!
何なんだこいつは!
大体サーヤって誰だよ!
俺は心の中で叫ぶ。
―…遡ること四時間前。
教室に入っていきなり決闘を挑まれた俺は、困惑のあまり、とりあえず男を無視して席に向かおうとした。
それに腹を立てた男が、席に向かおうと歩き出した俺の肩に突然掴みかかってきたため、俺は咄嗟にその腕を掴み、捻り上げてやった。
さらに怒った男は、反対の拳を硬く握りしめ、こちらに打ち込んできたので、さすがにイラっと来た俺は、その腕をとり、綺麗な投げ技を披露してしまう。
これが運の悪いことに、少し早く教室に現れたウィル教官に目撃され、俺たちはそのまま指導室に連行。事情聴取をされるはめとなった。
男が語るには、双子の妹が俺に口説かれ、困っている。貴族として醜く野蛮な喧嘩は許されないので、正式な決闘により決着をつけたい。妹は俺が守る!とのこと。
俺にはさっぱり身に覚えがなかったため、正直に知らないと説明したのだが、ウィル教官は何やら面白がり、結果、決闘は容認されてしまう。
おい!小声で「これも経験だな」って言ってたの聞いてたからな!
そんなわけで、今である。
男の名前はカフス・キルトン。青空のような淡い水色の髪と同色の瞳が特徴的なハンサムボーイ。
キルトン家は伝統ある侯爵家の血筋らしいが、残念ながらこの場においては全く関係ないし、売られた喧嘩は全力で買うのが礼儀だろう。
というわけで、俺は一切手加減せずにカフス・キルトンをボッコボコに叩きのめしている。
木剣とはいえ、これだけ打ち据えられたら相当痛いだろうに。正直もう辞めたいのだが・・・。
「はぁ、はぁ。まだだ!サーヤは、妹は僕が守る!」
彼は一切諦めようとしない。どころか、息も絶え絶えに俺を睨みつけてくる始末。
うん。(打たれ)強いのは認めよう。でも、はっきり言って相手にならないので、そろそろ諦めてほしい。心から。
大体、クラスで頭一つ抜けている5人の中でも、彼は一番下なのだ。きっと彼自身がよく分かっていることだろう。それなのに彼は立ち上がる。妹のために。
俺は彼の騎士道に敬意を表したい。
参ったと言って握手を交わしてやりたい。
しかし、それはできない。
だって、身に覚えがないんだもの!
「なあ、いい加減、話を聞いてくれないか?」
「誰がお前なんかの話を聞くか!妹を誑かすクソ蟲め!」
「いや、だから違うんだって!」
「何が違う!妹に色目をつかって話しかけていたじゃないか!」
「・・・俺が?」
「ああそうだ!この髪の色を忘れたとは言わせないぞ!」
ん?淡い水色の髪の女の子?
確かにどこかで見たような・・・。
「学校が終わったらダンスをしようなどと、妹を夜会に誘っていたじゃないか!」
あ~完全に誤解されているみたいだな。これは。
確かに俺は水色の髪の女の子を放課後のダンス練習に誘った。貴族の女の子だという話を聞いたため、教師役をお願いしたのだ。
まさかこんな勘違いをされているとは思わなかった。
う~む。どうしたものか。
とりあえず誤解を解こう。
「あれは・・・」
「兄さん!!」
誤解であることを説明しようとした俺の声を、突然現れた女の子の声がかき消す。
「さ、サーヤ!?どうしてここに!」
「それはこっちのセリフよ兄さん!どうしてこんなこと!」
「だ、だってこいつがお前を誑かして・・・」
「は、はあ!?ち、違うわ!何を勘違いしているの!」
「で、でも!放課後にダンスって・・・夜会・・・さそって・・・」
「あれは教師役を頼まれていただけよ!」
「・・・へ?」
「だから!放課後のダンス練習!クラスの人たちでやっているじゃない!」
「・・・あ!」
「その教師役を頼まれたのよ!」
「そ、そうだったのか!!」
どうやら誤解は解けたらしい。
ふぅ~。助かった!
「分かってくれたか?」
「なんで言ってくれなかったんだ!!」
いや、俺の話を聞かなかったのはお前だろう!
サーヤも同じことを思ったらしく、
「どうせまた兄さんが勝手に暴走して話を聞かなかっただけでしょ!」
「あ、いやっそれは!」
「もーいい加減にしてよ!変な思い込みですぐ暴走しないで!」
「うっ!」
「はぁ~。うちの兄がご迷惑をおかけしてすみません。いっつもこうなんです。」
「あ、うん。誤解が解けて良かったよ。」
サーヤは俺に向かって謝罪をすると、カフスを引っ張って去っていった。
どうやら常習犯らしい。
どんだけ思い込みが激しいんだよ!勘弁してくれ!
こうして妹を巡る(?)決闘騒ぎは幕を閉じた。




