54 ・・・は?
どうやらこの数週間、俺が放課後に何をしているのか気なっていたらしい。というか、一緒に遊ぼうと思ったらいつもいないので、すごく寂しい思いをしていたとのこと。
「親友のボクを放って、こんな楽しいことをしているなんてズルいじゃないか!なんで言ってくれなかったんだ!」
などとふくれっ面をさらすクリス。
エサを溜め込んだリスみたいだ。
「いや、だって。クリスはダンスの練習なんて必要ないだろ?」
「それは、そうだけど・・・。」
「それに、クラスの雰囲気とかもあるしさ。」
そう。いまだにクラス内の雰囲気は良くない。
平民と貴族で壁ができてしまっているのだ。
「そ、そんなの関係ないよ!だいたい、ジェフ君だって貴族だろう?」
「いや、ウチは一代限りだし・・・。」
「「・・・」」
しばらくお互いに沈黙したあと、唐突にクリスが声を上げた。
「・・・そうだ!」
「ん?どうした?」
「ほら!ボクってダンスが上手でしょ?」
おっと、いきなりダンス自慢か?そのドヤ顔を殴ってやろうか?うん?
俺の顔を見てクリスが慌てる。
「ち、違うよ!ほら、ボクだったら、ダンスの練習中にアドバイスとかもできるかなって。」
「あ~なるほどね。」
ふむ、確かに。できる人間がそばにいた方が、効率よく練習ができそうだ。素人では分からないところもしっかり指摘してくれそうだし。冴えた提案だ。
問題は・・・。
「ティナ、どうする?」
生粋の貴族であるクリスのことを平民の彼女が嫌がるかもしれない。
そう思っていたのだが、
「いいわよ。願ったりかなったりじゃない。」
ティナはあっさり了承した。
俺の不安は杞憂だったらしい。というか、貪欲な彼女としては、ダンス上達のためには手段を選ばないということのようだ。恐るべきハングリー精神である。
そんなわけで、この日から放課後のダンス練習にクリスが加わった。
クリスが加わってからの練習は、実に捗った。今までは自分と相手の動きのみに集中していたために、外から見たときの見え方までは意識出来ていなかったのだ。
しかし、クリスが第三者目線から指摘してくれるようになってからは、自分たちの動きがどのように見えているのかを知ることができるようになった。
この効果は非常に大きく、今までそこそこであった評価が、一気に“優秀”にまで上がるほどであった。
こうした結果を受け、いつの間にか放課後のダンスホールには平民の学生が集まるようになった。クリスの人懐っこさというか、人当たりの良さから、多くの学生が教えを乞いたいと願い出たためである。
一人二人と増え、今では平民学生のほとんどが参加している。
流石にクリスだけでは教えきれないと、クラスの貴族学生にも声をかけた。
初めは渋っていたが、やはりクラス内の雰囲気を気にしていたのだろう。しだいに教師役を務めてくれる生徒も増えた。
ダンスの練習を通じ、お互いの交流も増えたからか、クラスの雰囲気も良い方向へまとまりつつあった。そんなある日の出来事である。
俺はいつも通り朝食をとり、クリスと教室へ向かった。
教室のドアを開いた瞬間、俺に気づいた男子生徒が一人、ドスドスと肩を怒らせ迫って来る。
そして、俺の前でひと際大きく足を踏み鳴らすと、俺を鋭く睨みつけながら彼はこう言った。
「俺と決闘しろ!!」
「・・・・・・・・・は?」




