53 新たな日課
その日から俺には新しい日課が増えた。
放課後のダンスホール、ティナ(マルティナの愛称)とのダンス練習である。
初めはお互い、というかティナのほうが、俺を避けていたため、ダンスホールの端と端でそれぞれ別々に練習していたのだが、お互いの動きを観察しているうちに、ダメな部分を指摘し合うようになったのだ。言葉で伝えられない細かい部分については、実際に組んで練習したりもした。
そうした結果、相手を意識して練習したほうが、効率がよく覚えやすいということも分かり、なんだかんだ今では二人で組んで練習するようになったというわけだ。
ティナは凄く真面目で優しい女の子だった。なんというか、練習中は自分にも相手にも妥協を許さない厳しさもあるが、時々お手製のお菓子なんかを持ってきてくれることがある。
いつも不機嫌っぽいなと思っていた鋭い目つきは、実は生まれつきのもので、決して怒っているわけではないのだとか。
それから最近気が付いたのだが、彼女が時おり見せる素っ気ない態度。どうやらこれは、ちょっとした照れ隠しらしいのだ。
いや、勘違いかもしれないけれど。そう考えたらとても接しやすくなったので、まあいいだろう。ちょっと可愛いし。初めて教室で会った時よりはずっといい感じだと思う。
そんなわけで、このダンス練習を始めてかれこれ3週間過ぎた。
俺もティナも、もともと運動のセンスは十分あったようで、2週間もすれば一曲通しで踊れるくらいには上達できた。
授業の評価も、この一曲に限定すればかなり良くなっている。俺たちは、もうクラス最低評価ではない!
とはいえ、覚えなければならないダンスの種類が色々とあり、さらに曲調によっても動きが変わってくるため、まだまだ練習が足りない状態なのだ。
今日も俺とティナは、放課後のダンスホールで練習をしていた。
「「いち、に、さん、し。いち、に、さん、し。」」
うん。なかなかいい感じだ。覚えたてのクイックステップだが、俺たちには相性がいいらしい。剣術のステップとテンポが似ているからだろうか?
などと考えごとをしていたからか、
「「あ!」」
ステップを踏み間違い、ティナを押し倒しそうになってしまった。ギリギリ耐えたけども!
「っつ~危なかった~。」
しかし、あまりの急接近に驚いたのか、ティナの機嫌は急降下。
いつかと同じように顔を真っ赤に染め上げ、怒鳴り散らしてくる。
「な、なに考えてんのよ!この、や、優男!」
あれ?やっぱり褒められた?んなわけないよな。
「ご、ごめん。でも、なんかいい感じだったから、つい。」
「はうっ!?」
あれ?ティナの反応が・・・あっ!
「あ、いや、ダンスの話!ダンスの!」
俺は慌てて真意を伝え直す。
「そ、そうよね!・・・ま、まあ今のはそこそこ良かったんじゃない!そこそこね!」
よしよし。すぐに分かってもらえたみたいだ。
それなのに、
「「・・・」」
え?なにこの雰囲気。
な、なんか気まずい!
どうしよう・・・。
しかし、幸運にも(?)そんな雰囲気をぶち壊すやつがダンスホールに飛び込んでくる。
「い、いた!!やっと見つけたよジェフ君!!」
栗色の髪をフリフリと動かし、犬のように駆けてくる人物。
誰であろう、俺の親友クリス・マグズウェルである。




