52 放課後のダンスホール
まるで壊れた人形のようなぎこちないダンスステップと、優雅さの欠片もない鋭いターンをひたすら真剣な表情で練習する黒髪の女の子が一人。
シャドーダンスにしても、相手は一体どんなバケモノなのだろうか。およそ人の動きとは思えない、そんな異次元のダンスを見せる彼女。
床には軽く水溜まりができるほど大量の汗が見受けられる。どれだけ練習していたのだろうか。
もしかして、授業が終わったあともずっと残って練習していたのだろうか?
間違いなくそうだろう。あの真剣なまなざしを見たら疑う余地もない。
クラスの最低評価がどうした。
そんなことはどうだっていい。
今に見てろ。必ず見返してやる!
そんな心の叫びが聞こえてくるようだった。
素直に凄いと思った。
カッコイイと思った。
思わず鳥肌が立つ。心が震える。
初めての感覚かもしれない。
そして同時に自分自身から、こう問いかけられている気がした。
「お前はあれほど真剣に向き合っていただろうか?どうせ社交ダンスや礼儀作法なんて最低限出来ればいい。そんな気持ちでやっていなかったか?」
自分の心の弱さに、甘さに、忸怩たる思いがこみ上げてくる。知らず、唇を噛んでいた。
と、その時だった。
「!?」
床の水滴に足を取られ、頭から転びそうになる女の子。
「危ない!」
俺は咄嗟に飛び出し、間一髪のところで女の子を抱きとめることに成功した。
「ふぅ~。・・・大丈夫?」
しかし、女の子は顔を真っ赤に染め上げ、怒り心頭。そのまま腕の中で大きく暴れ出す。
「な、な、なんなのよ!放しなさい!こ、この、色男!!」
怒られたのか?いや、褒められたのか?分からん・・・。
まあ、とりあえずケガはしていないみたいだし。よかった。
「え~と、立てる?」
「!?」
なんかすごい勢いで逃げられた。やっぱり怒っているようだ。彼女は鋭い眼光で俺を睨みつけている。
「そ、それで。どうしてこんなところにいるのよ!」
「あ~っと。教室に忘れ物しちゃって・・・」
「さっさと帰ればよかったじゃない!」
「いや~聞き覚えのある音楽が聞こえてきたものだから、つい。」
「いつから見てたの!」
「ん?」
「だ、ダンスの練習をしているところよ・・・」
「ついさっき・・・です。」
「ふ、ふ~ん。だったらさっさと帰りなさい。私ももう帰るところなんだから。」
「本当に?」
「・・・本当よ。」
実に怪しい。さっきまでの鋭さはどこへやら、目が泳ぎまくっている。この子、さては嘘がド下手だな。
「本当の本当?」
「・・・本当の本当よ。」
「・・・」
やがて、睨み合いに疲れたのか、それとも観念したのか。俺を睨みながら声高に叫ぶ。
「も、もう少ししたら帰るわよ!」
彼女はもう少しだけ練習していくらしい。なるほどなるほど。だったら!少し照れ臭いけれど、俺は勇気を出してこんな提案をしてみる。
「だったらさ!・・・俺も付き合っていい、かな?」
彼女はそっぽを向きながら答える。
「か、勝手にすれば!」
とりあえず認めてくれたらしい。よし!
「うん。ありがとう。俺はジェフリー・カーティスよろしくね!」
「ふ、ふんっ!私はマルティナよ!あ、あんたなんかと仲良くするつもりなんてないんだから!」
そう言うマルティナの声音は、それほど怒っているようには思えなかった。
こうして初めてできた同年代の女友達、それがこの子、マルティナである。
描いてみたかったシーンの一つ。
頑張る女の子ってとても素敵です。




