45 理想
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うん。さすがに限界。もう立っていられないや。
「ドサッ・・・はぁはぁ・・・はぁはぁ。」
へたり込む俺のもとへパイさんと男が戻って来る。
「あなた本当にすっっっっごいわ!!まさかここまでなんて!想像以上よ!!」
パイさんは上機嫌で俺を褒めてくれる。凄く嬉しいし、誇らしい。
しかし、俺は素直に喜ぶことなんてできなかった。
「2人、助けられませんでした・・・」
そう。俺は目の前の2人を救うことができなかった。
その事実が、どうしようもなく俺を苛む。
目の前で人間が吹き飛ばされる光景が鮮明に焼き付いて離れない。
どうしたら助けられたのだろうか?そればかり考えてしまう。
俺には関係のない人たち、赤の他人、だったらどうでもいい?
違う。俺はいつの間にか、全てを守りたいと、そんな騎士になりたいと思ってしまっていた。
傲慢かもしれない、絵空事かもしれない、心の底では分かっていたはずだった。
それなのに、どうしようもなく苦しい。
俺はなんて弱いんだ!目の前の命にすら手が届かない!
結局、魔物一体倒すだけで満身創痍、その程度の実力。
こんなんじゃ何も守れやしないじゃないか!
そんな思いだけが、ただひたすらに溜まってくばかり。
唇を噛み締めて俯く俺に、しかしパイさんはこう言った。
「ううん。ジェフ君、あなたは1人救ったのよ。目の前で失われるはずだった命、その1つを。これって凄いことじゃない?」
男も続ける。
「ああ。お前のおかげで、俺は救われた。これだけは間違っちゃいけねぇ。それに、あいつらのことは、リーダーである俺の責任だ!お前が背負う必要はねぇ!」
「そうよ。大体、私たちは冒険者。自分の命の責任は、自分にあるんだから。」
それでも俺は・・・・。
結局、気持ちの整理がつけられないまま、3人でウラノスに帰還した。
倒した魔物と2人の遺体は収納袋に入れて、冒険者ギルドまで運んでもらった。
今回の報酬は合計で30万リア。道中で倒した魔物とジャギーコングの魔石や素材の分を合わせてこの金額だ。
パイさんは、私は運んだだけだからと俺に20万リア渡し、自分は10万リアでいいと言った。
ちょっと気が引けるなぁと思いつつも、ありがたく貰っておくことにした。旅費の足しにせねば!
そうして報酬の分配が済んだところで解散。
何か忘れているような気もしたが、とにかく疲れていたため、俺は何も考えずに宿に戻ることにした。
宿に戻り、お風呂に入っているとグレッグがやってきた。
「よっ!無事に帰って来れたみたいで安心したぜ!」
「う、うん。」
「ん?どうした?なんかあったか?」
「・・・」
「なぁ、話してみろって。この兄貴によ!な~んてな!ハハハ!」
無邪気なグレッグの笑顔を見ていたら不思議と心がほぐれていった。気づけば俺は今日の出来事をグレッグに話していた。
話が終わったあとグレッグは、う~むと唸るとこう続けた。
「だったら、強くなりゃあいいじゃねぇか。」
なんてことない顔で、そう話すグレッグに俺は無言を返すことしかできなかった。
「・・・」
「だってそうだろ?今のお前じゃ、どう頑張ったって3人全員を救うことはできなかったんだ。つまり今のままじゃ足りないってこった。だったら答えなんて決まってんじゃねぇか。ひたすら自分を鍛える。そんでもって拾えるもん全部拾う。これだけだろ?」
まるで、お前なら余裕だろ?とでも言いたげな顔だ。
はぁ~簡単に言ってくれる!でもその通りだったのだ。俺は弱い。だったら強くなればいい。それだけだった。
さっきまであったモヤモヤが溶けていったような気がした。
あああああああああ!忙しい!落ち込んでる暇なんてなかった!
やらなきゃいけないことが山ほどある!やりたいことも山ほどある!
きっとこの時、ようやく俺の魂に本当の火が宿ったのだろうと思う。
自身の理想とする騎士像がはっきり定まった瞬間であった。
作者が言うのもおかしな話ですが、ようやく主人公の輪郭が見えてきたような気がします。そろそろ時間加速を使いつつ物語を進めていかねば・・・と思っています。お付き合い頂ければ幸いです。




