44 ジャギーコングとの戦い
「はぁっ!」
俺は勢いよく男の前に突き出されたジャギーコングの腕をとり、斜め後方に受け流す。
ジャギーコングの身体は勢いを殺しきれず、そのまま体勢を崩しながら斜めに転がっていくが、やはりダメージは一切ないようで、すぐさま立ち上がると空気を大きく震わす咆哮を一つ。
「ガァアア!」
俺は油断なくジャギーコングと睨み合いつつ、後ろを伺う。
「ドサッ!」
どうやら男は腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまったようだ。
流石に背に庇った状態で相手をするのはキツイよな・・・。
と、考える俺のもとに、一足遅れてパイさんがやって来た。
「大丈夫!?」
「はい!ただ・・・」
俺が一瞬だけ後方へ視線を向けると、パイさんは呆れたようにその男を見る。
「・・・あ~。」
男はそれが気に障ったのか、喚き散らす。
「な、なんだよ!しょうがねぇだろ!!」
パイさんはさらに溜息を洩らし言う。
「はぁ~。あんた冒険者でしょ。それもCランク、『ガレオスの牙』だったかしら。」
「だ、だったら何なんだよ!」
「みっともないわねぇ・・・あんたリーダーでしょ?」
「う、うるせぇ!」
なにやら見覚えがあるなぁとは思ったが、この人、この間からんできた冒険者パーティーのリーダーだったようだ。
それはさておき、今は目の前の相手に集中しよう。
俺はパイさんに声をかけ、男を任せることにした。
「パイさん!そちらはお願いします!」
パイさんは心得たという感じで一つ頷く。
「ええ、こっちは任せて!」
俺は腰に下がった剣を引き抜き、ジャギーコングのもとへ突撃する。
「はあぁぁぁあ!」
勢いよく振るった剣は、しかし強靭な腕筋により弾かれてしまう。
「ちっ!硬い!」
弾かれた衝撃で体勢を崩す俺に、ヤツはすかさず鉄球のような尻尾を叩きつけてくる。
「くっ!」
遠心力の効いたそれを受け流しきれず後退した俺を、ヤツが追撃してくる。その大振りの右拳をスレスレのところでかわし、ヤツの懐へ飛び込む。
「ここ!」
俺は大きく開いたヤツの脇下に剣を突き立て、その肉と筋を深くえぐった。
これでヤツの右腕はもう上がらないはず!
しかし、ヤツは構わず左手で俺を掴みかかりに来る。
「ガァアア!」
俺はとっさに横に飛ぶことで、辛うじてそれを回避する。
「ふっ!」
互いに体勢を立て直し、再び睨み合う。
「ん?あれは!?」
と、俺とヤツのちょうど中間くらいの位置に鈍く光るものを見つけた。おそらく先ほどの冒険者の誰かが落としたナイフだろう。
「ふっ!」
俺は慎重にヤツの動きを観察しながら、ナイフ目掛けて駆け出した。
「ガァアア!」
走り出した俺に気づき、ヤツもこちらへ突撃してくる。
「しっ!」
俺はスライディング気味に何とか掴み取ったナイフを、ヤツの眼球めがけて思い切り投げつけた。
「ガァアアアアアアア!」
放ったナイフは自分でも驚くほどなめらかに空を滑り、ヤツの左目に突き刺さった。
あまりの激痛に耐えかねたのか、その場で誰も寄せ付けないと言うように身を捩り、腕を振り回して暴れ出す。
「ぐはっ!」
俺は振り子のように振られた左腕に吹き飛ばされたが、ブヨブヨとした防具が衝撃を吸収してくれたため、辛うじて耐えていた。
「ガァアア!」
ヤツも満身創痍なのだろう、激しい咆哮を上げるが、突撃してくる様子はない。
そうして再び睨み合いとなるが、
「はぁはぁ・・・まずいな。」
予想以上に体力の消耗が激しく、身体がつらい。重い。速まる動悸が、とめどなく流れる汗が、熱くなった全身の細胞が俺に限界を伝えてくる。気を抜いたら倒れてしまいそうだ。
「はぁはぁ・・・」
いいや、こんなところで負けるわけにはいかない!
俺は騎士になるんだ!みんなを守れる強い騎士に!
「くっ!」
歯を食いしばれ!目を瞠れ!
どんな小さな隙も見逃すな!
そして、
「いまだ!!」
一瞬、体勢を崩しかけたヤツを俺は見逃さなかった。
一直線にヤツの懐へと飛び込み、その鳩尾に剣を突き立て、縦に一閃、臓物を引きずり出す。
しかし、ヤツは止まらない。
最後まで俺を嬲り殺すべく、辛うじて動く左腕で殴りつけてくる。
倒れ込みながら放たれるヤツの最後の一撃をなんとかかわし、今度は喉に一閃。
・・・ようやくジャギーコングはその動きを止めたのだった。
やはり戦闘シーンは難しいですね・・・。




