43 一陣の風
次の日、俺は冒険者ギルド前でパイさんと合流し、ウラノス南東にある“クッペ山”というところに来ていた。
ウラノスにいる冒険者のほとんどは、“南の森”か“クッペ山”を狩場としているらしい。とはいえ、流石に駆け出し冒険者が行くところではなく、D~Bランクくらいの魔物が広く生息しているとのこと。
今日の討伐対象であるジャギーコングは、そんな“クッペ山”の少し深いところに生息しており、縄張り意識が非常に高い魔物だという。なんでも、縄張りに入った侵入者を興奮が冷めるまで1日中殴り続けるのだとか。怖すぎる。
パイさんから聞いた話だと、全身は真っ黒な毛で覆われており、頭には2つの大きな巻き角とギザギザの鬣、鉄球に鎖が付いたような特徴的な尻尾を生やした巨大なゴリラっぽい見た目だそうだ。体長は3~5メートルで個体差がけっこう大きく、強さもそれに応じて変化するとのこと。
つまり、デカければデカいほど強くて狂暴だということだ。当たり前だが。
しばらく山の中を歩いていると、しだいに周りの雰囲気が変化していった。
ここまでは細い木々が多い印象だったが、いつの間にか周りにある木々は大人が腕を回しても届かなそうな、幹の太い木々ばかりになっている。パイさんも警戒する姿勢をとりつつ、俺に声をかけてきた。
「それじゃあ、ジェフ君。ここからは慎重に進むわよ!」
「はい!」
周りを警戒しつつ山の中を進んでいると、
「「!?」」
どこからか戦闘音のようなものが聞こえてきた。
少しすると同じ方向から、ドォンという地鳴りも聞こえてくる。
パイさんも少し興味が湧いたのだろう、俺のほうを向いて、こう提案してきた。
「誰かが戦っているようね。ちょっと覗いてみましょうか。」
非常に気になっていた俺は、喰い気味に同意する。
「ぜひ行きましょう!」
そんな俺を見て、パイさんは苦笑していたが。
戦闘音のしていた方角に行くと、冒険者と思しき男性と大きな巨木(?)のようなものが見えた。
「・・・あれはウッドジャイアントね。」
「魔物ですか?」
「ええ。Cランクの魔物よ。」
「へ~。」
横たわっているのを見るに、おそらくすでに倒した後だろう。
などと、のんきに構えていた俺たちであったが、
「・・・!・・・!!」
ここで突然、男は慌てた様子でどこかに向かって叫びはじめた。
男が叫んだ方向に目をやると、負傷者とそれに肩を貸す人物、そしてさらにその後ろから高速で迫る“黒い何か”。
「あれは!」
おそらくあれがジャギーコングだ!
俺はパイさんから聞いた特徴を思い出し、“黒い何か”がジャギーコングであると確信する。遠目からでも判るほどの巨躯は、間違いなく5メートルを超えていると思われる。最強クラスだ!
まずい!考えるよりも早く、俺は駆け出していた。
「くっ!間に合わない!」
しかし、離れた場所にいた2人は、ジャギーコングの一撃により吹き飛ばされてしまう。
ジャギーコングはそのまま速度を緩めることなく、先ほど叫んでいた男のほうへと向かっていく。
どうしたらいい?
どうしたら助けられる?
何か手はないか!
剣を投げて注意をそらす?
無理だ!
間に合わない!
・・・・・いや、あれなら!
加速する思考の中で、俺は昨日のことを思い出す。
身体強化魔法。魔力をエネルギーとして、爆発的な身体能力を発揮する魔法だ。
「ふぅ~。」
俺は、走りながらも何とか呼吸を整え、魔力を全身に巡らせる。
そして、
「【身体強化】!」
ギリギリのところで、男とジャギーコングの間に身体を滑り込ませることに成功したのだった。
冒頭にもってくるか次話にするか迷いましたが、戦闘は次話に・・・。
じらしてすみません。




