40 アンヌさんの魔法講座
「それじゃあ、せっかくだし、魔法の基礎訓練の仕方を教えておくとしよう。まあ、剣の素振りみたいなものだと思っておけばいい。こちらへ付いてきなさい。」
アンヌさんはそう言うとカウンターの奥にある扉を開いた。
俺たちはアンヌさんに続いて、その扉を潜る。
扉を潜った先は何もない空間だった。
そう、不自然なほど何もないただの真っ白な空間、まるで異空間のような場所であったのだ。
アンヌさんにも伝わったのだろう。
すぐにこの場所について説明してくれた。
「もう気づいていると思うが、ここもある種の異空間になっていてね。ちょっとした魔法を試したいときや弟子の修行なんかによく使っているんだ。さっき潜ってきた扉がその入り口さ。」
さらにミレーヌさんが補足してくれる。
「つまり、ここでいくら魔法を使っても外への影響はないから心配しなくて大丈夫ってこと。思いっきりやっちゃっていいわよ!」
ということで、さっそくアンヌさんの魔法講座(初級編?)である。
「まず、魔法を使用するには、自分の中にある魔力をしっかりと認識することが重要だ。まあ、魔道具を扱った経験があれば、何となく魔力の存在を感じたことはあるだろう?」
確かに、魔道具を使用するとき、自分の中から何かが引き出されていく感覚を味わったことがある。
おそらくそれが魔力というやつなのだろう。
「さっきも言った通り、魔道具には半強制的に使用者の魔力を引き出す仕組みがあるため、使用者は無意識に魔力を吸われてしまう。しかし、自分の魔力を知覚できていれば、こんなことができる。」
アンヌさんは、懐から手のひらサイズの球体を取り出すと、それを片手に握りしめた。
「え!?」
次の瞬間、アンヌさんの握った球体が超高速で点滅し始めた。
「この球体は至極単純な魔道具でね。魔力を吸うとこんなふうに光るのさ。」
そう言うと、球体はただ明るく光るだけとなった。
「でも、自分の魔力を引き出されないように意識してやれば、この通り。」
今度は球体の光が小さくなり、やがて消え、一切光らなくなった。
「まずは、自分の魔力を意識して、魔力を流す・止めるを交互にやってみよう。まあ、流す方は魔道具が半ば自動でやってしまうけれど、そこにも意識を向けてみるんだ。」
アンヌさんはそう言うと、手に持っていた球体を俺に渡してきた。
うん。やはり、俺の中から何かが抜かれていくような感覚がある。
これを止める・・・。
まずは、この抜けていく“何か”に意識を向けてみよう。
俺は目を閉じ、深く、深く集中する。
すると、次第にその“何か”のイメージが固まってきた。
う~む。これはなんというか、血液が抜かれる感覚に近いのかもしれない。
俺は心臓から肩、腕、そして指先へと流れる“何か”を感じ取る。
さらに、指先から球体へ糸のようなものを伝って出ていく“何か”を強く意識してみる。
この糸を切れば流れを止められるだろうか?そうイメージした瞬間。
「!?」
唐突に“何か”の流れが止まった。
俺はゆっくりと目を開け、手元を見る。
すると、球体の光は消えていた。
「うんうん。しっかり魔力の流れを止められているね。じゃあ、今度は意図的に魔力を流し込んでみよう。」
俺は再び意識を集中させ、先ほど知覚した何か、すなわち魔力をイメージする。
身体の中心から指先へ、そして球体へ思い切り流す。
すると、
「パンッ!」
「うわぁ!」
球体が勢いよく弾けたのだ!
「ハッハッハ!これは派手にやったもんだ!」
アンヌさんが声を上げて笑う。
「え~と・・・」
「ああ、すまない。つい笑ってしまったが、今のは魔力の流しすぎによるものさ。キャパシティを越える魔力を供給したことにより、行き場をなくした魔力が暴れて破裂したってところかな。風船を膨らませすぎて破裂させるようなものだよ。」
なるほど。魔力の流しすぎか・・・。
「先ほどは説明しなかったが、魔力はただ流し込めばいいというものではないんだ。魔法は魔力をどれだけ込めるのかによって強さが変わってくる。そして、その魔力をコントロールできるのは術者本人だけだ。つまり、自分にどれだけの魔力があるのかを正確に把握し、そのうえで、用途によって魔力の出力を調整する必要があるということなんだ。常に全力で魔法を放つわけにはいかないからね。というわけで、もう一度やってみよう。」
アンヌさんは、新しい球体を懐から取り出し、俺に手渡した。
よ~し!今度こそ!




