39 魔法適正③
それは磨き抜かれた鉄のような光沢を有していた。
しかし、拾い上げてみるととても軽く、鉄とは全く違うものであることが判る。
さらに驚くべきことに、この金属らしき物体は、俺が触れている間だけ、まるで粘土のように形状を変えることができるのだった。
「え~と・・・」
周りを見回すが、誰一人反応がない。
「「「「・・・」」」」
時が止まったかのような静寂が空間を支配した。
しばらくして、ようやくその静寂を破る声が上がった。
「素晴らしい!!いや、これはむしろ流石と言うべきなのかな。」
アンヌさんは一瞬の興奮のあと、何やら一人納得したようにうんうんと頷いている。
そこへ声をかけたのはミレーヌさんだった。
「し、師匠!これは一体どういうことなんですか?」
「ん?ああ、ミレーヌたちは見たことがないかもしれないね。これは水晶玉が魔力によって変質したものなのさ。硬度については、ご覧の通り。ふんっ!」
アンヌさんはそう言うと、その不思議な物体を金槌で思い切り叩いた。
先ほどと同じようなキーンという甲高い金属音が響き渡る。
「「「「!?」」」」
しかし、その不思議な物体には全く傷がつかない、どころか金槌のほうがへこんでしまった。
つまり、鉄よりも遥かに硬いということだ。
「こういった現象が起こる理由はただ一つ、触れた人物に放出系と循環系の両方の魔法適正が備わっているためだ。」
「え?でも、さっき基本的に魔法の適正はどちらか一方だって・・・」
「そう、基本的にはね。でも、極稀にではあるが、両方の適正を備えている特別な才能の持ち主も存在している。すでに魔法学会でも認知がされていて、こういった人物を“マルチ”と呼んでいるんだ。」
「・・・“マルチ”ですか?」
「実際に私が知っているだけでも、歴史上3人はいるよ。そしてジェフリー君、キミで4人目だ。まあ、国中を探し回ればもう少しいるかもしれないけれどね。意外といるだろう?」
「はぁ~そうなんですね。」
俺のほかに3人。一体どんな人物なのだろうか。
歴史上ということは、すでに亡くなっている人もいるのだろうか?
しかし、俺が疑問を口にするよりも先に、ミレーヌさんが続けてこう質問した。
「ところで、師匠!水晶玉が変質するのは、どうしてなんですか?」
「ふむ。実は、それについてはまだ解明されていないんだ。だから、これはあくまでも仮説にすぎないんだけれど・・・」
そうしてアンヌさんが言うには、放出系というのは魔力を別のもの(基本的には別のエネルギー)に変換して体外に出す能力のことで、循環系は魔力を自分の意志で自由に動かすことができる能力であるらしい。
この二つの能力を同時に使うことにより手に触れたものに魔力を循環させつつ、それを別のものに変換、すなわち変質させることができるのだという。
さらに、これをうまく使いこなせれば、火や水といった不定形の放出系魔法であっても自在に操れたり、触れた物体を別の素材や形に作り変えることが可能かもしれないといわれているようだ。
なんて万能な能力なんだ!
先ほどとは打って変わって、俺のテンションはもう爆上がりである。
そんな俺の様子に、若干あきれ顔のアンヌさんはこう続けた。
「まあ、本当にできるかどうかは、実際に見たこともないから分からないけれどね。この水晶玉だって、あくまでも魔法適正を確認するためだけの道具にすぎない。魔法を使うにはある程度の修行が必要になってくるし、さらに極めようと思ったら相応の覚悟が必要だよ。いずれにせよ才能に胡坐をかかず、しっかりと努力を怠らないことだ。」
「はい!がんばります!」
これからは剣だけじゃなく、魔法の修行もしなきゃなぁ。
俺はいっそう努力しようと気持ちを新たにするのだった。




