38 魔法適正②
それからアンヌさんは店の奥から小さく透明な水晶玉をいくつか持ってきた。
「この水晶玉は、触れた者の魔法適正に合わせて決まった変化を起こす特徴があるんだ。放出系の魔法適正がある場合には水晶玉から水が湧き出し、循環系の魔法適正がある場合には水晶玉が硬くなる。魔力の量に応じて湧き出す水の量や硬度も変化するから、そちらも確認しておこう。」
「ちなみ、私たちが触れるとこうなるわ。」
ミレーヌさんはそう言うと、水晶玉を手のひらに載せた。
「!?」
すると、スポンジを軽く握ったときのように水晶玉からジワリと水が溢れ出てきた。
「私の魔力量だとこんなものね。」
続けてグレッグも水晶玉を手に取る。
「・・・ん?」
俺には一切変化が起きているようには見えない。
しかし、その疑問はすぐに解消された。
「ふんっ!」
アンヌさんがいつの間にか持ってきていた金槌で水晶玉を砕き割ろうとする。
「!?」
俺は思わず目を瞑ってしまったが、いくら待っても水晶玉が割れる音は一切聞こえてこなかった。
おそるおそる目を開けて見てみると、驚くべきことに水晶玉は全くの無傷だった。
グレッグは得意げな顔で、
「俺の魔力によって水晶玉の硬度が上がったからだぜ!」
と教えてくれた。
「それじゃあ、ジェフ君も。」
俺は、期待と不安にワクワクしながら、水晶玉を手のひらに載せた。
「え~と、こうですか?」
「「「「「わっ!?」」」」」
変化は劇的だった。
先ほどミレーヌさんが触れたときとは全く違い、一瞬にして大量の水があふれ出て、床を濡らしたのだ!
そう。俺には放出系の魔法適正があったのである。
しかも、あふれ出る水の量が尋常ではないところをみるに、ミレーヌさんよりもかなり多くの魔力を秘めていることが判る。
「・・・ん?」
と、ここで俺は一つ重大な問題に気づいてしまった。
放出系の魔法適正があるということは、俺には循環系の魔法適正がないのか!?
先ほどアンヌさんが言っていたが、基本的に魔法適正はどちらか一方のみであるらしい。
その話が正しければ、俺には循環系の魔法適正がないことになる。
いや、いやいやいや、ちょっと待ってくれ!
それじゃあ、俺には騎士ではなく魔法使いのほうに適正があるということになってしまうではないか!
放出系の魔法はその性質上、中長距離からの支援攻撃に利用される。
したがって、放出系の魔法に適正があるということは、遠距離主体の魔法使いに強い適正があるということになってしまうのだ。
たしかに、適正がなくてもある程度のレベルまでは努力次第で到達できるだろうから、決して騎士になれないわけではないと思われる。
しかし、果たしてそれは俺の目指す騎士なのだろうか?
俺の憧れた英雄(父さん)は、常に先頭に立ち、その背中で仲間を鼓舞し続け、国を守ったという。
そんなカッコイイ騎士に、俺はなりたかったのだ!断じて後方支援の魔法使いではない!
そう思ったら、居てもたってもいられず、気づけば水晶玉を握りしめ、腕を振り上げていた。
「こんなもの!」
俺は、勢いに任せて手に持った水晶玉を思い切り床へ叩きつけた。
「・・・」
しかし、予想に反して、水晶玉の割れる音は一切聞こえてこない。
どころか、不可思議なキーンという金属音のような甲高い音が部屋中に響き渡ったのだ!
俺は平静を取り戻し、思い切り叩きつけたモノをもう一度見た。
「ん!?」
すると、そこに転がっていたのは、先ほどまでの透明な水晶玉ではなかった。




