36 ミレーヌのお師匠様
毎度お読み頂き本当にありがとうございます!
皆様のブクマ・評価が大変励みになっております!
これからも楽しんで頂けるよう、少しずつ更新していきますので、よろしくお願いします。
お店の中は、よくある雑貨屋のような様相で、壁際の棚や真ん中の丸テーブルの上には用途不明の魔道具がたくさん並べられていた。
この中で唯一判るのは、以前ミレーヌさんに見せてもらった【収納袋】くらいだったのだが、
え?・・・いち、じゅう、ひゃく、せん・・・5000万リア・・・たっか!
あまりの高さに目玉が飛び出るほどである。
この間のファングボアが1頭あたり1万リアだったから、大体5000頭分。
まあ、魔石も採取できれば、倍額くらいで買い取ってもらえるらしいから半分の2500頭で済むけど・・・うん。十分多いな。下手したら狩りつくす勢いじゃないか?
と、魔道具の値段を見てはあれやこれや考えている間に店のカウンターにたどり着いた。
そこには、店員と思しき人物が一人、突っ伏している。
髪が短めで、一見男性のようだが、華奢な身体つきを見るにおそらく女性だろう。
貴公子然とした雰囲気があり、なんというか、寝ている姿さえ様になっている。
世の中のご令嬢方がこの姿を見たならば、うっとり見惚れるに違いない。
しかし、そんなことは構わず、
「師匠!起きてください!師匠!」
ミレーヌさんはその人物を乱暴に揺すって起こそうとする。
「・・・すぅ・・・すぅ。」
「師匠!いい加減に起きてください!」
「・・・すぅ・・・すぅ。・・・ん?・・・すぅ。」
「いい加減起きろ!こら!」
「・・・すぅ・・・すぅ。」
師匠とやらは全く起きる様子がない。
まるで屍のようだ。
しまいには、なりふり構わず手にした杖で殴る殴る。
しかし、いっこうに起きない。
「みんな!下がって!こうなったら、ありったけの魔法をぶち込むしかないわ!」
「「「!?」」」
ミ、ミレーヌさん!落ち着いてください!
ここは魔王城でも戦場でもありません!
それにその人、どう見ても魔物じゃなくて普通の人族ですよ!
しかし言うが早いか、ミレーヌさんは魔力を練り上げ、魔法を準備しはじめた。
ミレーヌさんの魔法が文字通り火を噴きそうである。
そろそろ、本気でヤバい!そう思ったときだった。
「・・・う~ん。うん?おはよう、ミレーヌ。そんな怖い顔をしてどうしたんだい?」
寝ぼけ眼を擦りながら、ポケェとした様子で周りを見回すミレーヌさんの師匠。
ミレーヌさんは般若のような形相から一転、底冷えのしそうな絶対零度の笑顔で杖を振りかざす。
「起きてください!今すぐに!でないと、このお店めちゃくちゃにしますよ?」
「・・・うん?・・・うん!?ちょ、ちょっと待った!お、落ち着きなさい、ミレーヌ!まずは、その杖をおろしなさい!いや、おろしてください!」
「目は覚めましたか?師匠!」
「だ、大丈夫!この通り、もうバッチリ目が覚めたよ!スッキリ爽快!ありがとう、ミレーヌ!」
「どういたしまして、師匠。」
さっきまでの修羅場が嘘のように、ミレーヌさんはにっこり笑顔でこちらを振り向き、
「と言うわけで、こちらが私の師匠、アンヌ・シュルツェン様です!」
俺に魔法の師匠アンヌ・シュルツェン様を紹介してくれた。
「はぁ~いつからこんなに暴力的に・・・」
などと後ろのほうで静かに溜息をつき、頭を抱えるアイナ様。
「何か言いましたか?師匠。」
今の愚痴が聞こえていたのだろう、すかさず笑顔で凄むミレーヌさん。
「いえ!何でもありません!」
おかしい。弟子に凄まれて青い顔をする師匠とか・・・。
ちょっと心配になってきた俺をよそに、他の二人は呆れた様子で苦笑いを浮かべている。
パーティーメンバーの二人には、どうやらすでに見慣れた光景のようだ。
大丈夫かなぁ・・・。




