35 魔道具屋
そうして次に向かったのは、魔道具屋『トイボックス』というお店である。
なんでも、魔法使いミレーヌさんの師匠がやっている店なんだとか。
お店は表通りから大分離れた場所にあるようだ。
先ほどからよく分からない裏路地を右へ行ったり、左へ行ったりしている。
俺一人なら完全に迷子だなぁ・・・
ミレーヌさんに付いて行くことしばし。
「着いたわ、ここよ。」
ようやく着いたかと、顔を上げ辺りを見回した俺だったが、
「・・・ん?」
おかしい。周りには閑静な住宅街のような光景が広がっており、目の前にはとてもお店とは思えない、小さなボロ屋が一つ。
ぶっちゃけモノトリとか指名手配されている下手人なんかが、隠れ潜んでいそうな怪しげな雰囲気である。
俺は、少し不安になって、ミレーヌさんに声をかけた。
「え~と、ミレーヌさん?」
「なに?・・・ああ、大丈夫。ついてきて。」
ミレーヌさんは一瞬不思議そうな顔をすると、俺の疑問を悟ったのか、一つ頷き、かまわず自分についてくるように言う。
ミレーヌさんに続いてグレッグとフェイも、何も言わずボロ屋に入っていくので、俺も慌ててその後を追った。
「わっ!?」
扉を潜った先の光景に、俺は思わず息をのんだ。
なんとも幻想的な空間が広がっていたのだ。
ここは絶対にさっきのボロ屋の中じゃあない!
上は青空、どこまでも突き抜けるような青とふわっふわの綿菓子を無理やり浮かべたような白い雲が、限りなく続いている。
下は星空、どこまでも続く真っ暗闇の中に小さく美しい星々が満天に散りばめられ、さらには、俺たちの立っている場所から一筋の道を作るように星の河が流れている。
その星の河を進んでいくと、青空と星空の境界線上にポツンと佇む一軒家が見えてくる。
どうやらあれが魔道具屋『トイボックス』らしい。
俺は、ひたすらに目の前の景色に見入っていた。
しかし、その感動を打ち消すように隣から雑音、もとい笑い声が聞こえてくる。
「「「ぷっ!あははは!」」」
と、開いた口が塞がらない俺の間抜け面を眺めて爆笑する3人。
そう。何の説明もなしに俺をここへ連れてきた下手人どもである。
「あははは!どうだ?驚いたか?」
「うふふ!驚いたでしょう?」
「・・くく、ちょっ、その、かお!あははは!」
「・・・」
こ、こいつらぁああ!
感動から一転、沸々と怒りが湧いてきそうだ。
まあ、開いた口が塞がらないほど驚愕したのは事実だけども・・・。
ひとしきり笑いが治まったところで、俺はミレーヌさんにこの空間について聞いてみた。
「それで、ここは一体何なんですか?」
「ここは、魔法で作り上げた異空間の一種。さっきの扉が異空間への入り口になっていて、ボロ屋はフェイクなのよ。要領としては、前に見せた【収納袋】と同じ。術者の魔力によって空間の広さが変わってくるの。まあ、これだけ大きな空間を作るには相当な魔力がいるから、常人には無理でしょうけどね!ちなみに、この異空間の凄いところはそれだけじゃないの。さっきの扉以外にも入り口が複数存在するわ。例えば王都とかね。ただ、残念だけど入ってきたところと別の場所に出ることはできないから、移動に使おうなんて考えちゃだめよ。あくまでも、国のあちこちからこのお店に来れるだけ。それから・・・」
なんだかミレーヌさんが熱く語ってくれているが、なるほど、あの扉は異空間への入り口になっていたのか。こりゃあ驚いた!
まあ、どう見てもあのボロ屋の中って感じじゃないしな。
しっかし、色んな場所から入ってこられるというのは凄く使い勝手が良さそうだな。
王都にも入り口があるということだから、時々使わせてもらおう。
そして、こんなところに店を構えるミレーヌさんの師匠・・・一体どんな人なんだろうか。
好奇心に胸を躍らせながら、俺はみんなに続いて店に入った。
幻想的な風景って難しいですね。
中々イメージがまとまりません・・・




